第148期 #23

水花火

 職人が作った水花火は、水のなかで咲く。花火が水に映じたのではなく、正真正銘、水のなかで光るのだ。なぜ水のなかで火を灯すことができるのか定かではない。職人に聞いても、他言無用の技だと言って教えてくれない。村人たちはただ愛でるだけだ。
 口を開けたまま見入っていた子どもが、その手を水花火に伸ばしたまま水に落ちた。助けに行く者は誰もいない。みなそういうものだと思っている。
 やがて子どもが打ち上がる。空いっぱいに火花を散らし、辺り一面に光をまく。綺麗だねぇと言って見上げる村人たちの顔に、ぼとぼとと光の飛沫が落ちてくる。みな何ごともないかのように、その赤い飛沫を手のひらで拭う。新年のお祝いなのだ。
 子どもの親だけが泣き崩れる。神に魅入られたのだから仕方のないことだと、村人たちがその背中に手を置き、代わる代わる声をかける。親の泣き叫ぶ声はおさまらない。
 職人はその声を聞きながら、次の水花火のデザインを考える。今度はもっと大きな火花がいい、何重にも暈がかかるような、そんな大きな花火を作りたい。
 村には七人の子どものいる家がある。



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