第148期 #17
今日は部活の午後練が休みだった。だから、家に帰ろうといつもの各駅停車に乗った時、あたりはまだ明るかった。
毎日登下校に使う路線ではあるが、窓の外を眺めることはあまりないから、たまに眺めると、だいぶ新鮮に感じられる。窓から、ほんのりオレンジ色に染まって見えるのは、住宅街、畑、学校……特に変わったものはないけれど、電車から見る景色というのは、なんとなく特別である。
この速さ、視点の絶妙な高さ、独特の揺れ……
私はそんなものを堪能して、そして明日が提出日の課題をふと思い出して、軽くため息をついたのだった。
電車のドアが開いた……降りなくては。少し重いカバンを持って、ホームへ降りた。
比較的利用者の多い駅だから、4時ごろという微妙な時間でも、階段の前には結構な人だかりが見える。電車の後方に乗っていた私は、電車から降りるとその人だかりを遠目に眺めた。そして人だかりに向かって歩いていった。ふと足が止まった────あの人がいる。
すっと高い背丈に、ほんの少し頼りなさそうな、でも優しい背中が、目に入ったのだった。それしか見えなかった。どうしてここにいるのかもわからなかった。だけど、間違いない。あれは、私の知ってる、あの人だ────とっさに私は全力で走り出した。階段前でスピードを少し落とし階段の人だかりの中に突っ込んでいき、人にぶつからないように注意しながら、それでも人にぶつかりながら、階段を勢いよく降りていった。その勢いのまま改札を出て、そしてあたりを見回した、必死に見回した、足が止まった────もう、いなかった。
心が足元にストンと落下する音がした。カバンを持つ手もストンと落ちた……あの人だったのに、絶対、あの人だったのに。そうなのに……会いたかったのに。
もう二度とあの人に会えない気がした。そんな絶望だった。私の視線はまっすぐ前から動かない。冷ややかな視線が向けられる。さっき階段を降りた時にぶつかった人たちからの、冷たい視線だった。私はもう動けない。膝が動けない。
改札を通る時の「ピッ」という機械音が、私の中で繰り返し虚しく響いていた。