第148期 #1

ひとし

ひとしは18人いる。
この世にいるひとしの数を数えてみればちょうど18になる。
歳はそれぞれ違うから、順番に死ぬ。一人死ねば一人生まれる。世の中にいるひとしの数は変わらない。

たまに事故に遭う。
予定できないことだからそうなったら厄介だ。
世の中のひとしが足りなくなる。急に作ろうと思って作れるものではない。
ひとしも当然、人間である。
しかるべき手段で、ひとしを発生させなくてはならない。
だからひとしは集まる。
委員によって早急に日時が決められ、代表のひとしが呼びかける。
幼いひとしは両親に連れられ、何もわかっていない。
話し合いは簡単だ。
君がどうしようといえば、僕はどうしようと答え、
どうしようもないんだよだから、といらだち、
じゃあ集まる意味あるのと根本をひるがえし、
まあまあスイーツでも食べて落ち着こうじゃないか、
ふてくされて甘栗を口に放り込む。

何も決まらないままに会議は終了する。
会議が終わる頃、ひとしが産声を上げる。
集まったひとしは安堵のため息をつく。
ひとしの周りの人間、すなわち
ルールを守らなければとかたくなになるものたち、によって
ひとしは維持される。

ひとしが足りなくなるとどうなるのか。
今までにそうなったことがないから、わからない。
ある人は、猫が徒党を組む、と言う。
ある人は、風向きが変わる、と言う。
ある人は、直径100メートルの隕石が落ちてきて人類は滅びる、と言う。
みんな想像しているだけだ。
案外、何も起きないのではないかとも思っている。
当のひとしたちはノーコメントを貫く。
そこは一定の距離を置く。
ひとしがでしゃばるべきでない、と先輩のひとしに教わっている。

ひとしも人間である以上、生活をしている。
家族もある。
普段はひとしであることを意識しない。
誰かが誰かであることを意識していないのと同じだ。
朝起きて、あくびをして、目をこする。
パンを焼き、バターをぬる。
学校へ行き、窓の外を眺める。
ひとしは空を見る。
あの雲はフランスパンみたいだ。
同じ空を、別のひとしは見上げて思う。
あの雲は鰹節みたいだ。

ひとしは君であり、僕である。
また、猫であり、フランスパンであるかもしれない。
時限爆弾だとしても不思議でない。
覚えておくべきだ。



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