第147期 #15

ギフト

 真夜中に寒さで目が覚めた。
「くそ、たまらないな」
 低くつぶやいて布団を整え、毛布を身体に巻き付けた。節約のためにエアコンはなるべく使わないようにしているのだが、そろそろ限界かもしれない。なんとなく違和感があって部屋の中を見まわしてみた。
 テレビは消えているが、外が普段より明るい。ベランダのガラス戸の向こうから強い光を感じる。始めは月明かりのようだと思ったが、どんどん強くなり、映画館から外に出たときのように一瞬目がくらんだ。
 カチン、ズズズズ、とベランダの戸が開く音がした。光を背景にして部屋に入ってくる影が見えた。五歳児くらいの大きさで、猫背で手が長い。不釣り合いに大きい白いものを背負っている。毛深い身体はチンパンジーにしか見えなかったが直感的に、宇宙人だ、と分かった。UFOから背中のパラシュートで降下してきたのに違いない。
 一歩一歩、宇宙人がベッドの方に近づいてきた。不思議と不安はなかった。だが身体は金縛りにあったかのように動かなかった。宇宙人は目の前まで来て顔をのぞきこむようにした。こういうのは昔、テレビで見たことがある。運が良いのか悪いのか。特別なことが自分にも起ころうとしているのか。ぼんやりとそんな考えが頭の中をめぐっていた。
「む、む」
 チンパンジーの宇宙人は不器用ながら言葉を発し始めた。
「無力感にとらわれず、できることをやりな、さい」
「うるせえ」
 なぜそんなに苛立ったのか分からない。瞬間的に叫んでいた。我に返ったときにはもう朝で、頭から布団を被っていた。管理人のばあさんに何か言われるかなとちょっと気にかかった。騒音を異常に嫌うばあさんだった。

「それさあ、サンタじゃないの?」
 彼女はチョコレートパフェを食べながら言った。外は雪がぱらついているけれど喫茶店の中は暖かすぎるくらいだ。
「えっサンタ」
「そう、背中に大きな袋を背負って真夜中に現れたんでしょ。だって昨日はクリスマスイブだし」
 なぜだか心臓がドクンとした。
「でも、でもそいつ、何にもくれなかったぞ」
「そりゃもうプレゼント貰える歳でもないでしょ。サンタが姿を見せてくれただけでも感謝しなさいよ」
 心の中にさっと広がったもやもやが少しずつ静まって、以前よりも視界がクリアになった。
「そうか。今日はクリスマスか」
 笑いが、幼い頃の様々な思いとともにこみ上げてきた。
「行こう。プレゼント買ってやるよ。三千円までだけどな」



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