第147期 #1
田舎なんてダイキライ!
来年、高校生になる、姉ーー伊吹碧が、夕飯の支度をしている、母やわたし(伊吹紅)に、言った。
母は困ったように、
「じゃ、高校どうするの?」と、尋ねた。
姉は、迷いのない瞳でこう答える。
「あたし、東京の高校に行って寮生活がしたいんだ!」
母は、少し困ったように、
「じゃ、お父さんに伝えてみるわね」
と、答えた。
わたしたちの父親は、めったに家に帰って来ない。いつも、日本中を飛び回っていて、最近は海外にも視野を広げている。
お姉ちゃんは、そんな父に似て、活発で少し派手な印象がある。
「お姉ちゃん、ホントに東京の高校に行くの?」と、わたしが訊くと、
「行くよ」とはっきり、答えた。
「紅はさ。この先、どうするの?」
「えっ?」
お姉ちゃんが、鋭い目を向ける。
「あんた、漫画描いてること、皆に内緒にしてるでしょ?」
図星だった。
「うん……」
「あんた、そのまま趣味で終わらせるの?」
「えっ?」
わたしは、驚いてお姉ちゃんを見ると、
「わたしさ、東京にある、音楽付属高校に行こうと思ってるんだ。バイオリン続けたいし。それに、将来は、作曲家になりたいんだ」
えっ。
「あ。あんた、今、無理って思ったでしょ!?」
うっ。
「でも、いいんだ。ーー夢だから。あんたもさ、もう少し、積極的にならなきゃ!せっかく、紅なんて、情熱的な名前なのに、勿体ないよ!」
なんて、笑った。とても眩しい笑顔だった。
そう、言って姉は、東京に行くことになった。
「あ、そうだ。紅。ひとつ、いいこと教えてあげる」
「えっ?」
「漫画は描けば描くだけ巧くなるよ」
「えっ?」
「だから、最初から、無理だとか、『漫画家になる』とか、決めずに、描き続けてごらんよ」
ーーきっと、未来はその先にある。
「ーーからさ。」
太陽が、眩しい。
その中に姉は消えていく。
けれど、伊吹のような風が気持ち良く、わたしの髪を揺らす。
未来は、その先にある。
何度も、何度も、呪文みたいに唱える。
出来るかわからない。けど、確かに、
ーー未来は、その先にあるんだ!
わたしは、勢いよく走り出す。
そして、ペンを取った。