第145期 #13
10月にもなると、午後6時は日が短くなり、薄暗くなってきた。並木通りに沿って路地を歩いていると、銀座6−8丁目は今夜もにぎやかだ。オリンピック開催決定の建築需要、震災の復興需要が前倒しにこの時とばかりに社用族が動き出したようだ。「あっ吉田さん、お久しぶり。お元気でした?」路地を走るマウンテンバイクから威勢のいい声がかかる。まるでトライアスロンの選手のような出で立ちで二十歳位の健康的な乙女である。「まずいなあ、今夜は忙しくてこれからケーキを買って娘の誕生日会をしなきゃならない。また今度ね。」彼女の名前は麻衣子、ミニクラブと言われる小さなお店、マックス客数10名程度、女子数は5名程度の店である。昔、ビッククラブを卒業した経験10年以上の淑女がママを勤めるお店が多い。そのママが雇う娘たちなので、未経験者を安く雇っているので、このチャリ娘も近所築地に住む所要時間10分、経費の掛からない自宅通勤、深夜も自走、タクシーも近距離の娘である。しかし、器量はママのおめがねに掛かる男をその気にさせるものを持っている、さすがである。ドレスは店で用意しているので、通勤は軽装である。いつも同じドレスを着ている記憶もある。経験少ない若手が多いのが現状で、これから大所を目指す、一年生ホステスが昼の仕事を持っていたり、この銀座には行き交うのである。「吉田さんも浮気しないでよ、この時間から開いてる店はないと思うけど」そ、今、6時30分では開いていないと思いきや、お客も事情があり、午後4時ごろから食事して5時半には入店したいという方も多いようでシフトを組んで営業しているお店も多いようです。また、若い子ばかりと思って覗くと、かなりの年季の入った淑女もおりまして、いったん卒業して戻ったり、年増の新人もちらほら、ママの裁量により、お客の年代も加味しての取り揃えです。「じゃママによろしく。来週末は2−3名で伺うと思うんで」と言い残し麻衣子と別れた。いつものように銀座の夜が始まった。3年前の3月もこの調子で店を訪れた吉田とその客らは想像を絶する過酷な困難に直面し、なかなか立ち直ることができなかった。そう東日本大震災である。この3年半をどのようにもがき葛藤をしたか、銀座にまつわる話にお付き合いください。つづく