第145期 #11

鬼の暮し

山から暗い風が吹き降りてきた。
鬼の一族は人間に見つからぬように、浅い川瀬を渡る。
彼らは私たちを見つけると叫び、そして、松明を持って狩りに来る。
だから、どんな時も気を緩めることは出来ない。
人間は見た目が明らかに違う、自分と同程度の知能を持つ存在を許さない。
非常に誇り高い、そんな生物。
鬼には、自分たちが迫害される、その理由が分からない。
しかし、その理由が正しく理解できた時、和解の始まりがあるのだろうか。
そこで鬼たちの知るのは、人の醜さかもしれない。
鬼が鬼に生まれた理由は、鬼にさえわからないのだから。
たが何千年もの間、この世界では、それが繰り返されている。
鬼も逆襲を試みて、人を殺害したりした。
それを知った人たちは、もっと鬼刈りを主張した。
だが、時の権力者たちは、それを許さず、現在に至っている。
何故、そんなことになるのかは、分かりやすい。
鬼が存在することで、人々が心をひとつにする。
仲良くさせては、それは危険だ。
和解は、許されぬ。
けれども、全滅は権力者のカードを減らすことになる。
だから、今夜も鬼は逃げ続け、人びとは狩りをする。
マイノリティよりも、マジョリティーの方が大事だ。
だが、マイノリティにも使い道は、存在する。
鬼と人の諍いは、ずっと続く事だろう。
たが仕組みに気づいて、声をあげる者が居るかもしれない。
その時には、闇が待っている。
永遠の闇での、永遠の眠りが。
本気であるから恐ろしいのだ、きっと。
だから、表沙汰にはせずに、風化するのを待つ。
僅かな娯楽で人たちを支配できるなら、こんなに安いものはない。
鬼に生まれたことで、その運命に逆らうことは難しい。角は、切り落とせないから。
それは、大事なものなのだから。



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