第144期 #5
またひとつ話が終わった。丁度その時、砂時計の最後の砂が落ちるところだった。私は砂時計をひっくり返す。もう十分経ったのか。
彼女は咽渇いたね、と言った。私はそれを水を汲んでくれという事だと思い床の水溜まりから水を掬い、ご丁寧にストローまでさして彼女の前に置いた。私は彼女にお礼を言われながらそういえばもう3時間近く休憩していないことに気がついた。話が止まらないのだ。
そもそも、彼女はなぜ私の話しについてこれるのだろう。私は世界で67番目に頭が良いけど彼女はそんな私の話に困惑することなく正しい相槌をうってくれる。まあ、私もいちいち説明するよりは理解してくれていた方がありがたい。
あ、そんなことよりも棒を付け足さなくては。大切なことだ。
これがないと何回話したのか分かりにくい。確か今ので99,999,999本目だ。話のネタは尽きない。だけどさすがに少し疲れて来た。
けれど私は話を止めてはいけない。彼女を退屈させてはいけないのだ。
それが彼女から全てを奪った私の罪滅ぼしなのだから。
ごめんねと言うと彼女は、机の上に置かれた顔を少しだけ曇らせて、また諦めたように、笑う。