第143期 #6

俳句

裏庭のただ一本の茶摘かな    他人の句
 誰の句かは分からないが季語は「茶摘」。春の季語ですよ。関連季語として「一番茶」「二番茶」「茶摘時」「茶摘女」「茶摘唄」「茶摘籠」「茶摘笠」「茶摘時」などがありますが、「新茶」は初夏の季語です。気を付けましょう。でも紛らわしいですね、「茶摘」はだいたい八十八夜の頃から始まりますが八十八夜と言うのは立春から八十八日目、だいたい5月初め頃、5月2日ぐらいに当たります。なので暦の上ではもう立夏がね、5月6日頃に迫って居るでしょう。春の季語とは言え、晩春も晩春で、「茶摘」と言うと春の季語だが、もう初夏の馥郁たる薫風が匂って来そうじゃありませんか。
 私は今、俳句学園俳句科で勉強して居る。講師の名は葉意句木語と言ってまるで句作する為に生まれて来たような男だった。みんな親しみを込めて「くきごさん」と読んで居るがフルネームで「俳句季語」と読めて仕舞う名前で偶然とは言え、この男は本当に俳句をやるために生まれて来た男なのだ。名字は「葉意」名前は「句木語」。「はい」と言う名字は日本語では珍しいかも知れないが全然ない訳ではない。
少年の感情線へ蝌蚪落とす    他人の句
 季語は「蝌蚪」で春です。オタマジャクシの事ですね。「数珠子」と言うのも有りますね。蛙の卵です。これも春の季語。うーんちょっとつまらないですね。ちょっと気分一新して有名な俳句を並べて見ましょう。
天日のうつりて暗し蝌蚪の水    高浜虚子
この池の生々流転蝌蚪の紐 高浜虚子
川底に蝌蚪の大国ありにけり    村上鬼城
蝌蚪一つ鼻杭にあて休みをり    星野立子
飛び散つて蝌蚪の墨痕淋漓たり   野見山朱鳥
焼跡に蝌蚪太りゆく水のあり    原子公平
かたまつて生くるさびしさ蝌蚪も人も 島谷征良
蝌蚪の国黄(くわう)厚き日をかゝげたり 小川軽舟
蝌蚪一つ寄りきて一つ離れけり   森賀まり
蝌蚪の紐継目なきこの長きもの   右城暮石
心ざし隆々たりし数珠子かな    大石悦子
水ゆれて蝌蚪の生誕はじまりし  藤崎ひさを
どうです?結構あるでしょう。ちょっと休憩入れましょうかね。
 葉意先生の講義は一先ず小休止した。この人の兄は弟と違いアメリカ人を母に持つ異母兄弟で、葉意クック・ローと言うのだが、日本語に直すと「俳句作ろう」と読めてしまうので、やはりこの人も天性の俳人であり俳句講師であるのだろうと、私は本気で思って居る。



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