第14期 #6
ハア、ハア、ハア、ハア……
私は必死で逃げていた。
何から?
怖くて振り返ることさえできなかった。
押し潰されそうな恐怖感を背中に感じる。
体が重い。
まるで水の中を走っているかのように、全身の動作がイライラするほど遅い。
それでも、なんとか前に進もうと必死に手足を動かす。
ただただ、迫り来る得体の知れない恐怖から逃れようとして。
ピピピピッ、ピピピピッ……
私は目覚まし時計を止め、ゆっくりと上半身を起こした。
――また、この夢だ……
起き掛けのぼーっとする頭で、私はさっきまで見ていた夢のことを考えた。
私はちょくちょくこういった類の夢を見る。
シチュエーションは違っても、いつも何かに追いかけられ、私はただひたすら逃げている。
足の速さには自信があるのに、夢の中では決まって体が重く、思ったように足が前に進まない。
そして、常につきまとうのが、言いようのない恐怖感。
だから、目覚めた時には、ほっとする。
ああ、夢だったんだなって。
しかし、今日はいつもと同じではなかった。
目覚まし時計が鳴る前に、私は半分起きていた。
うすうすそれが夢だと気付いていた。
カーテンの隙間から差し込む朝日を、なんとなく感じていた。
それなのに、私は起きようとしなかった。
夢のしっぽを捕まえて、起きることを拒んだ。
すごく怖い夢なのに……
起きてしまえば、得体の知れない恐怖から開放されるというのに……
どうして私は夢のしっぽにすがりついたのだろう?
私が恐ろしい夢と天秤にかけたのは……
今日も私は、時間ギリギリに家を飛び出す。