第139期 #11

旅の終わりと始まり

 白い頭蓋骨と白い腕の骨を見つけ、私はこの旅の終りが近いことを知る。
 田舎道の脇に雑草が生い茂っている場所があり、幾度となく空振りを繰り返した予感に促され、掻き分けたそこに骨だけになった彼女がいた。
 彼女なのはすぐにわかった。いや、もしかすると違ったのかもしれないが、私はその骨が彼女のものだと決めた。
 近くの農家に彼女の骨を見せて事情を説明し、鶏を一羽わけてもらった。教えられた道順を縄で繋いだ鶏とともに辿り、すでに廃校になった小学校を訪れた。そのときにはもう日が落ちて辺りは暗くなっており、懐中電灯に照らされ見えた校舎が酷く不気味なものに感じられた。
 ランプを灯し、鶏とともに夕食を済ましてから、雑草がまばらに生えた校庭の隅に彼女の骨を埋めた。鶏を校舎の柱に繋ぎ、その校舎が不気味過ぎたので、私は校庭で毛布にくるまって眠りについた。
 翌朝、鶏の鳴き声で目を覚ますと、まず彼女を埋めた場所を調べにいった。そこには一輪の白い花が咲いていた。ひっそりとした小さな花だった。
 花は数分もしないうちに枯れ、その花芯に一粒の種を残した。私は種を取り出し、てのひらにのせた。花の種にしてはかなり大きいほうだろう。親指と人差し指で輪を作ったくらいの球体。白地で一部が黒く染まっている。種は人の眼球のようにも見えた。
 私は種を鶏のところまで持っていき、その嘴の近くに差し出した。鶏は幾度か首を傾げ、二、三度つついて危険がないか確かめたあと、嘴を大きく開けて挟み、少し苦労しながらも飲み込んだ。
 それから私は鶏を繋いでいた縄を外した。鶏は自由の身となり、しばらく羽をばたつかせて走り回っていたが、急に立ち止まるとすぐにぱたんと倒れた。羽が抜け落ち、見る間にその形を変え、やがて鶏サイズの人間の姿になった。人間の女の姿に。彼女の姿に。
 私はさっきまで鶏だった彼女を拾い上げる。水筒の水をかけると、その冷たさに彼女は身震いし、唇を尖らせて私を睨みつけた。
 なだめてから小さな彼女を肩にのせ、慣れないながらも焚き火をした。
 私が肩に手を差し出すと、彼女は恐る恐る私のてのひらに腰を下ろした。そのまま手を焚き火の前に持っていく。ふと彼女は私にひっそりとした笑みを見せた。それから炎を眺め、するりと椅子から滑り降りるように焚き火の中へと飛び込んだ。
 焼けてから食べた。
 こうして私の旅は終わりを告げ、これから彼女の旅が始まる。



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