第139期 #1
父の告別式も終わり、私は家に一人で座っていた。
半年の入院の末、父は帰らぬ人となり黄泉の国へと旅立って行った。
きっと父は向こうで母と再会して、二人で仲良く暮らして行くのだろう。
『もう喧嘩しちゃ駄目だよ。喧嘩してもわたしは仲裁に行けないからね』
父の遺影にそう心で語りかける。
『ねえ、母さん。父さんをよろしくね。お父さんは方向音痴だから、ちゃんと案内してあげてね』
もう、あの父の笑みも、怒った時の青筋を立てた顔も見る事は出来ない。でも、わたしは目を瞑ると、それらがありありと浮かんでくる。
今度は口に出して言ってみる。
「亡くなる前、お父さんは優しい顔をしたんだ。お母さんが向かえに来ていたのかな?
母が亡くなり、男手一つで私を育ててくれた父さん。大好きだった父さん。もう逢えないね。だから母さん、 母さん、本当に父さんの事頼みます」
私は引き出しから一枚の写真を取り出す。それは二人っが結婚する前に撮った写真。場所はどこだろう? 観覧車と木馬が背景に写ってる。きっと何処かの遊園地なのだろう。
私はこの写真が大好き。二人ともいい表情している。本当に楽しそう……
気がつくと、知らない場所に立っていた。周りを見ると、遊園地みたいで知らない景色だったが、何処かで見た様な景色だった。
そこでわたしは声を掛けられた。
「すいません。シャッター押して貰えませんか」
見ているだけで、楽しそうな二人連れだった。こちらまで楽しくなるような二人。良く知っているような気もするが思いだせ無い。
「いいですよ」
そう言って、『はい、チーズ』といいながらカメラのシャッターを押す。
今どき光学カメラだったのが気になった……
「ありがとうございました」
「いいえ、どう致しまして」
挨拶を交わし、その場を後にすると後ろで
「なんか感じの良い人だったね」
そんな会話が耳に入る。それを聴いて、自然と暖かい気持ちになった。
気が付くと元の場所に居た。どうやらたた寝をしていたらしい。時計を見ると僅か10分も経っていなかった。
先程の写真をもう一度眺める……そうか、この写真を撮ったのは……
二人は結婚生活は長くは無かったけれど、本当に幸せな時を過ごしたんだと思い直した。
心で深く繋がっていたんだね……父さん、母さん……
わたしもきっと二人の様な関係を築ける人を探します。
それまで、見守って下さい……