第138期 #7
彼は賢い子供だったので、長いこと異常を周囲に悟らせなかった。
彼女は彼に出会った瞬間、動物的に彼を嗅ぎ分けた。
「あなた私と似た臭いがする」
18歳の乙女とは思えないほど醜く太り、ニキビで汚れた頬を歪ませて笑った彼女に、12歳の彼は奇妙な興奮を覚えた。
彼女の唯一の趣味は生き物の瓶詰め。
彼にとって、生きていても性交できる異性は彼女だけだった。
つまるところ賢く生きねばたちまち淘汰される側だと解っていた二人は、初めて会ったときから戦友のように気が合った。
彼女の両親はアル中とヤク中、兄弟三人はその両方で、それでも彼女は家族を愛していたし尽くしてもいた。彼女の性癖を知らないほとんどの人間にとって、彼女は薄汚れた子猫のように息をすることを許されていた。
彼の両親は裕福で、消毒された白亜の豪邸を持っていた。
両親は個々に優れた芸術家で、気ままに世界を飛び回り、父や母であることは人生のオプションの一つに過ぎないと考えていた。
父と母にとっての自宅は次の目的地のための中継地点でしかなく、簡単な引き算により、一人っ子の彼は白亜の城の王様になった。
彼以外立ち入ることもない部屋の中では彼女が処理した動物の瓶が徐々に増え、とうとう「彼女の部屋」と呼べるほどに瓶が部屋を侵食したころ、彼の両親は飛行機事故で死んだ。
その数年後、成人した彼と彼女は一緒の家に住むようになる。
彼女は毎日小さな肉の瓶詰めを作り、彼は彼女の食事に毒を盛った。二人は互いが互いに何をしているか知りながら、穏やかな日々を過ごしていた。
「そういえばあなたのお父さんとお母さんにはとうとう会わないままだった」
毒の副作用で髪が抜け、ますます醜さに磨きがかかった彼女は、ベッドに横たわりながらそう呟いた。
「彼らはほとんど家にいなくてね。たまに皆で揃って食事すると涙が出そうで大変だった」
「その食事に毒を入れたのね。どうして二人とも気づかなかったのかしら」
まだらに髪が残った彼女の頭を撫でながら彼はいとおしむように答えた。
「毒より早く、飛行機で逝ってしまったよ」
「それなら今度は大丈夫ね。私、飛行機は嫌いだもの」
「馬鹿みたいだろ、それでも不安なんだ。君がどこかに行くんじゃないかと」
彼は泣きそうな顔で手にしたノコギリと彼女の下半身を交互に眺める。
「いいわ、私の為の瓶もあるから」
彼女は微笑み、そうして彼の好きなようにさせた。