第138期 #3
今頃あなたは都会で何やってるのかな?
あなたが出て行ってどれぐらいかしら……
今年のお正月はとうとう帰って来なかったね。わたし密かに期待してたんだけどね。
実はね、お見合いの話が来てるんだ……
誰もいないなら断れないと思う。――お見合いしてもいい?
電話しようか、手紙書こうかな。ちゃんと読んでくれるかな?
わたし結婚するなら若いうちが良いと思ってた。歳取ると色々大変だからね。
そう、もう若くないから……
一人でここの寒い冬を越すのは辛いよ。傍に誰か居て欲しいといつも思う……
しんしんと音も無く降る雪を見てるとこの世にわたし一人の様な気がするの。
そんな時、嘘でもいいから誰か傍に居て欲しい。
わたしね、あなたが帰って来てくれる様にお百度参りしたんだよ。
雪の降る冬に素足で、お参りしたんだ。
足が凍って感覚も無くなったけど、神さまにお願いを聞いて欲しくてね。
毎年やっていたの。雪が降る度に……
だって、そんな事でもしなかったら、寂しくて、辛くて……
ねえ、もういいかな?わたし、もう充分だよね。
神様、願い聞いてくれる?わたしの一つだけの願い。
あの時、わたしの方からあの人に言えば良かった?
それで嫌われたら、と思うと勇気が出なかった。
泣き虫で、泣くなら勇気を出せば良かったんだよね。
新しい道が見つかったかも知れないしね。
結局、肝心な勇気が無かったんだね。
夜明けの窓を開け、新しい空気を部屋に入れる。
そう、新しい一歩を踏み出そう。
そこまで気がつくまで時間がかかったわたし。
「のろまだなぁ?」
学校でも何時も一番最後だったっけ。これも一番最後なの?
それは、あんまり…… でも最後でも自分の場所があれば良いですか?
その時、家の電話が鳴る。朝からだれだろうと訝りながら電話に出る。
それは、何年かぶりの声で。
「今、駅だ!これから行くから、かならず待ってろよ」
強引な、それでいて有無をも言わさぬ声。
なによ、今更、なんなのよ、偉そうに……でも、でも、これは本当ですか?
わたしの幻覚や幻聴では無いですね。なら、わたしはどの様な顔でいましょうか?
表にタクシーの止まる音がし、わたしはその時世界が薔薇色に変わって行くのを感じたの。
もういいのですね……待たなくても……