第133期 #9

通学路

 わたしは陸上部が終了してようやく着信に気づいた。十九時だった。
 すぐにかけ直した。
「もしもし。今野です」
「はい。加藤です」
「こんばんは。いま部活が終わったとこ。連絡おそくなってゴメン」
「いえ。大丈夫です。いままだ学校ですか?」
「うん。部室からかけてる」
「自分も学校にいるので、会ってもらえませんか」
「いいよ」
 校門で待ち合わせて、電話を切り、わたしを待っていてくれた友達に謝った。灯と千代はしょうがないから校門までいっしょにいこうと切り出した。まさにそこで待ち合わせですとも言いだせなくてうなづいた。
 加藤くんがいた。
 下駄箱前の段差に腰をおろして、状態を左にひねり、わたしたちの歩いてくる様子をうかがっていた。私を見つけて立ち上がる彼。
 ため息がもれた。
「ねえ、ふたりとも。あそこに男子がいるでしょう」
「うん」
「いるね」
「わたし、あいつを振ったんだ。そしたらもう一度だけ会ってほしいって言われて。どうしようあそこまでいきたくない」
 千代が呆れているのがわかる、背中をこぶしでぐりぐりされる。
 ふつうに痛い。
「親切キャラなのに悪女ってなにしてるのよ」
「だって」
「勘違いされるようなことしたんでしょ」
「気づいたら勘違いされてたけど……」
 灯にもため息をつかれる。
「かわいそうだから。最初から脈ナシだったとは言わないであげて」
「言わないよそんなこと。ちょっといいかもって思ったりしたし」
「ええ。ひどい。かわいそうだよ。朝も謝らないと」
 灯がすごく正しくてうなだれてしまう。
 そしたら頭を撫でてくれる。
 ちょっとうれしい。
 ふたりから「がんばってねー」投げやりな応援を頂戴する。
 明日から千代にどんな目で見られるんだろう。
 内心すでに胃が重たいのに、笑顔でふたりに手を振っていて、とうとう加藤くんと対面しなければいけない。彼もこちらに接近していた。
 喪失した表情をしていて、言葉が堰を切る手前なのだとみてとれた。
 いや、ここでやるのはマズい。
「駅までいっしょにいこう」
「はい」加藤くんが頷いた。
 声音が棘だっていた。
 ふたりで並んで歩いている。



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