第133期 #1

自転車操業の自転車屋さん

父は這いつくばって生きていた。
自転車を盗み、色を塗り替え三千円で売る。
これが父の仕事だった。
父はこの仕事に誇りを持っていた。
駅前に置いてあるのは全部、放置自転車だ。
俺に持ってってくれと言ってる。
だから持って来るんだ、色を塗るんだ、売るんだと。
その父が死んだ。
そして今、僕が駅前の自転車を持ってきて、色を塗り替えて、三千二百円で売っている。
二百円値上げしたのであまり売れない。
自転車操業なのでとても困る。
父は這いつくばって生きていた。
僕は漂いながら生きている。



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