第132期 #4
肩車をしてもらい、壁と天井の角っこにいじけている風船を捕まえた。部屋に連れて帰った風船は時間をかけてしぼみ、やがて着地した。犬のように連れ回すと至るところの埃をまとって地を這う雨雲のようだった。
嵐が続いた。低い道はみんな川になった。時折顔を出す鯰のような魚の数を数えに近所の男の子たちが毎日集まった。
音は川の流れに呑まれ、私は男友達の部屋で肩車をしてもらった。笑い声がよく跳ね、しかし行き場もなく弾けて消えた。
嵐が過ぎても川は引かなかった。男の子たちは毎朝死んだ魚の数を数えて学校へ行った。
上京する男友達の軽トラックを見送って山に登った。両親の墓を掃除し終わる頃には嵐の背中も遠くなり、きつい日差しが雨のように降り注いだ。
町の様子は蝉時雨と霰のように落下する蝉とに移り変わって、男の子たちは毎朝蝉の亡骸を抱えて学校へ向かった。
風船が壁と床の角っこに居心地悪く揺れていた。音は蝉時雨に呑まれ、川だった道は川だった形をきつく残したままひび割れていた。
小さな雨雲を連れて歩いた。嵐の頃の悪習で朝から酒浸りの男たちの声はよく乾いていた。反響する度ひとつひびが増えた。
町の上に暗雲が帰って来た。小さな雲のような雪が川だった道をそっと隠した。その上に軽トラックの轍ができた。
男友達は可愛い人を連れて来た。吹雪が家と家とを一塊にした。灯した蝋燭が大きく風船の影をつくった。風船はだいぶしぼんでいた。
雪崩が起き、三軒が呑まれた。男の子たちは雪原となった道で毎夕雪と戯れた。
半紙に墨がぽつんぽつんとあった。向こうの喪服の肩に白い雪がかかっていた。白い雲に貼りついていた凧は雪に呼ばれて引き剥がされていった。たまたま他に誰もいなくなる瞬間に彼がこっちに来て、大丈夫かと声をかけた。すぐに人が戻って来て彼は外へ出て行った。
風船はちょうど船に似た姿で待っていた。男の子が一人訪ねて来て蝉の脱け殻をくれた。痛みを堪えるみたいに胸を張っていた。
嵐が近かった。まだ道でしかない道に男の子たちは集まって川の流れと流されていくものについて遅くまで語り合っていた。
嵐は日付の跨ぎと共にやって来た。川が瞬く間に現れて桟橋をつくった。脱け殻を乗せた船は上手に尾根を渡り町を出て行った。
男の子たちは毎朝川を監視したが流れて来るものはなかった。勢いは相当なものだが川は空を映して青く澄んでいた。雲ひとつなかった。