第130期 #3
時は2040年――科学はもちろんのごとく進歩していた。
空飛ぶ自動車や人が乗ると動き出すエスカレーターなど、物凄い発明からちょっとショボイ発明まで幅広く新しいものが作られていた。
そのうちの物凄い発明側に入るものに、人間ルンバというものがある。
人間ルンバ。「文字通り」と言ったら「わかるか!」と返されてしまいそうな名前だが、文字通りの発明品なのである。
想像したくもない代物だと、最低な発明品だと世間から批難されたその商品は、人間の形をした、掃除機なのだ。
予想を裏切るかもしれないが、決して床を這って掃除をするようなホラー商品ではない。
普通に箒や雑巾などで掃除をしてくれる、至って普通のロボットだ。
そのロボット離れした滑らかな動きと美しさは、瞬く間に世界中の人々を魅了し、全世界へ売り出された。
しかし人間ルンバは、本当の名を「お掃除ロボット」という。 「人間ルンバ」は、ある事件が起こり始めてから、このロボットにつけられた、恐ろしい意味のある名前だった。
全世界に約2千体が売り出され、少し大きな電化製品売り場にも設置されるようになった頃、とあるニュースが全世界の人々の顔を青く染め上げた。
『お掃除ロボット、誤作動を起こし住人を殺害』
掃除とコミュニケーション能力しかプログラムされていないはずのお掃除ロボットが、持ち主の住人を殺害した、というニュースだった。
世界中から「お掃除ロボット」が返品される中、その事件はどんどん数を増やしていった。
そしてある事件が起きた日、家に取り付けられた防犯カメラにその決定的瞬間が収められていたのだ。
ロボットを返品したいと業者と電話をしている女の奥に、機能停止されたロボットが箱詰めされている。
女は気づいていなかったが、目が一瞬赤く光り――箱を破り出てきたロボットは、恐ろしいスピードで女に這いより、殺害した。
この衝撃映像が世界中に広まり、「お掃除ロボット」は床を這う「人間ルンバ」へと名前を変えていった。
2042年現在も、人間ルンバは人を襲い続けているという――。