第13期 #17

「放屁倶楽部」

 日常において屁を我慢した経験ない人間はいないだろう。学校、会社、電車やバスの中はともかく、満員のエレベーターの中でなどは我慢するのがマナーだといわれている。果たしてそうだろうか。音、匂いが与える不快感は否めない。だが、それによって生じるその後の体調不良を考えたなら簡単に耐えろというのは如何なものだろうか。ストレスを溜め込みがちな現代社会において最低限度の生理現象までもが対象になるのは頂けない。よってオレは社内初活動費不要の「放屁倶楽部」なるものを発足することにした。この倶楽部の画期的な所は部員が匿名性である事だ。部長のオレ以外は誰が部員なのか部員同士ですらお互い知ることはない。倶楽部参加の鉄則は名の通り何所であろうと屁をかますこと、これ一つに尽きる。最初のうちは「すかし」も有りだ。自分の殻を打ち破る事は入部後即実行できるほど簡単な事ではない。特に未婚の女性は世間体を随分気にするものらしいのでこれは要望にこたえて特別に加えたルールだ。そう、驚いた事に女性の部員もいるのだ。最初は男性しか集まらないと仮定していた倶楽部規則の改定が必要になるほど、最近は増加傾向に有る。部員は増加の一途を辿った。社内の枠を出て一般参加者が激増し始めた。倶楽部を会へと名前を変え順調に運営していた頃、新興宗教団体から突然起訴された。なんでも教義を真似したとかしないとか。裁判で争った結果「放屁会」が勝利した。地元の新聞で奇天烈な社内活動として記事にされていた事が大きな決め手となり、宗教団体より古くから活動していた会に軍配が上がったのだ。熱烈な支持の下、会は何時の間にか宗教団体の装いを醸し出していた。古参の会員が幹部となり、オレはお飾りの教祖に祭り上げられた。そして、教祖のオレには妄信的な「放屁教」の若い美女が世話係として傍についた。聡明で優しい彼女にオレはたちまち心を奪われオレ達は夫婦になった。彼女は唯一の教義を熱心に守る敬虔な信者だった。いつ何時であろうと屁を放つ事を心がける。食事中でも夜の営みの最中でも必ず放つ。今日も笑顔でお茶を運びながら一発放たれた。家庭内で唯一不満があるとすれば、それ一点に尽きる。惚れた女に理想を求めるのは男の性だ。ああ、これで彼女がオレの前で少しでも屁を謹んでくれたなら何も言う事はないのに。自分で作ったモノに首をしめられる羽目になるとはなんと迂闊なことをしたのだろう。



Copyright © 2003 五月決算 / 編集: 短編