第13期 #11

恋人

つい先刻の話です。
にこにこと上辺ばかりは機嫌よく人とお喋りしながら ふと日暮れた外に目をやりましたところ
暗がりをすかした窓ガラスは 部屋の内と外を 同時に反映する鏡に変わっておりまして
私の頭骨の天辺付近から 暗褐色の山羊の角が二本 禍々しい意思をひけらかすように
ぐにゃりと曲がりくねって生えているのが くっきり映って見えました。
一瞬息が止まりましたけれど 他の人の目には見えないふうでありましたので
まだ微笑を絶やさずにおりましたら
今度は腕の皮膚を突き破り 青黒いウロコが次から次へと生えてきました。
ウロコは瞬く間に私の全身をくまなく覆い尽くしましたのに
誰一人として 私がもう私でなくなったと気づかないのです。
私はさりげない様子を装って 洗面所へ向かい 心臓の握りつぶされる心地で
それでも覚悟を決め 真正面から鏡に向き合いますと
鏡の中で笑っているのは 両の眼に異様な光を宿した ヒトならざる者の顔でした。
ヒトならざる者は 笑みを耳元まで引き裂いて
さぁ どうやってあいつを殺してやろうか と 囁きました。
無数のウロコに埋もれた私は そんなことは望んでない と言おうとしましたが 声にならず
そのかわり ウロコの外側に現れた私が どうぞ望むままの方法で と 答えました。

ああ けれどやはり見えるのですね この姿の変わり果てた様が。
他の誰でもないあなたにだけは。

硬い爪に目玉をえぐられ 長い牙に腹を裂かれ
臓物を引きずり出され 生きたまま骨の髄液まですすられたくないのなら
どうか今すぐ 私の手が到底及ばない場所へ逃げてください。
血溜まりに横たわるかつてあなただった肉の塊、
そんなもの 私は見たくはないのです。
さぁ いつまでも突っ立っていないで 早くお行きなさい 憎くていとおしいあなた。



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