第127期 #8

嘆きの人妻

サロンパス作戦というのはどうだろう?
いや別にトクホンだってかまわないのだけど。
作戦の中身は、こんなふうだ。

「あんな、悪いけど、背中にサロンパス貼ってくれへん?背中が凝ってんねんけど、場所的に自分で貼られへんねん。頼むわ」
と、夫の部屋に行き、サロンパスを貼ってもらうように懇願する。
夫は、しぶしぶながらもサロンパスを貼ろうとする。だろう。
そこで、私が大胆に背中を見せる。(当然だけど、この日のために背中のケアを日々入念にしておく)
夫は、悩ましげな背中を見て、欲情する。だろう。そのまま、二人は、めくるめく官能の世界に突入する。だろう。作戦は見事成功。○年ぶりの悲願達成。

と、ここまで考えを巡らせて、あまりのあほらしさにため息が出た。
だいいち、サロンパス作戦あるいはトクホン作戦が100%成功するとは限らないのだし。ものの見事に玉砕してしまった時のことを想像すると気が滅入る。
ただ単に、貼ってもらって終わり。となった場合だ。
凝ってもいない場所に貼られたサロンパスのヒリヒリした刺激に耐えながら、夫の部屋を出る時の自分の姿を想像すると、いたたまれない。
そんなにしてまで、そんなにしてまで、作戦を遂行する必要が果たして私にあるのだろうか?

たぶんあるのだろう。だって私はそうとうに乾いている。これ以上乾くとかなりマズいことになりそうな気がする。身も心も。

それにしても、夫の無関心には、毎度のことながら、気が抜ける。
先日。1年ぶりに美容院に行って髪をカットしてもらったのに、私が髪を切ったことにも全く気づかなかった。1年間伸ばしに伸ばしきった髪を、1年前の状態に戻してもらう長さまで切ったのにだよ。気づかないなんてありえないのに、夫は、あれほどすっきりした私の頭を見ても、顔色ひとつ変えず、普段と全く同じように接していた。
ありえなさすぎるけど、重すぎる事実だ。
1週間後にようやく、気がついた。
まじまじと私の顔を見て、驚いたように訊ねたのだった。
「あれ?あんた床屋に行ったか?」
と。
信じられなかった。
なんやねん?このあまりにも遅すぎる反応は!!
「何それ?この髪型、もう1週間になるし」
「まじ?それ笑える。全く気づかなかった。なんで気づかなかったのだろう?ふしぎ。」
と、夫は、両手を叩き、自分のあまりの気づかなさ加減に、ひとり受けていた。

情けないったらありゃしない。
夫ではない。
あほな作戦をあれこれ考えてしまう自分。



Copyright © 2013 あかね / 編集: 短編