第126期 #1

二十と私

 二十になった。選挙権が与えられたり、お酒が飲めたりとそれは法律的にとても肯定的で、素敵だ。社会からは新成人とよばれる生き物となり、人生においてそれは露骨な一つの通過点となる。きっとそこは、いくらかの希望と不安で飾り付けられている地点なのだろう。
 しかし、私のそこには何もなかった。いたずらに進む時間の流れの中からぽろっと、私が二十になったという事実が偶々落ちてきただけのように思えた。私がそれを拾わなければもう一年、あるいは永久に十九であり続けることさえできるくらいに。とことん無味乾燥な、まるで教科書みたいな二十の瞬間だった。それはある種、ソフィスティケートされてる感があり私としては好感触な二十の瞬間だった。ところが徐々に私は淋しさを感じていった。今までいたずらに流れるだけだった時間が、しだいに質量を持ち始め一定の圧で私の心を押しだした。そうしてクリープ現象よろしく心の歪が巨大化していった。私はぐるぐると混乱しながらもその圧に抗い続けた。その混乱を打ち砕いたのは時計の"カチリ"という音だった。



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