第125期 #15

焚火

焚火


 枯草や枯枝を集めて燃やすと、新しいいのちが沸き上
がる。炎である。
 小鳥たちは炎に狂乱して逃げ惑い、猫は喉を鳴らし、
目を細めて忍び寄って行く。
 火を支配しているのは、一人の老人である。この空地
の所有者であり、PTAの会長を務めてもいる。
 焚火を遠巻きにして、一人の男の子が立っている。 
 老人は寒がっている、その男の子を呼び寄せる。
 男の子は、老人に逆らえないものを感じて寄って行く。
 焚火には、女子供が群がっている。
 男の子は、気後れと気まずさに居た堪れず、足元に蹲
っていた猫に手を出す。
「そこに坐っている坊や、さつま芋焼けたぞ」
 老人は焼芋を新聞紙に包んで、男の子の方に差し出す。
「坊や、遅く来たのに、特別待遇よ」
 女の一人が言う。
「母親が入院したんだ。そんなわけで頼むよ」
 女の誰にともなく、老人はそう言った。
「あら、どこの坊やなの」
「足立さんちの… パパはわけがあって、いない」
 老人は小声で付け加える。
「そうだったの、可哀想にね。坊や焼芋食べたら、
おばさんちへ行こう」
「頼むよ」
 とまた老人が言った。

                了



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