第125期 #1
それは突然起こった。何の兆候も見せずに。そこには何かしらの理由というものは完全に存在しなかった。
私がこの世界に生まれたそのことである。いっさいの経験や予兆、予測といったものはなく、私は生まれた。あるいは完全な無から突発的に起きたビッグバンによって創生された宇宙のそれと同じ事だと言える。
ともかく、当然のことではあるが、私は私が生を受けることに何の予想もできていなかった。
今にして思えば、私の生涯は生まれたその瞬間から資本主義時代の勝者そのものだった。例えて言うならば、私にとっての労働とはただ存在することでしかなかった。
食事をし、睡眠し、あるいは暇つぶしの散歩をし、それだけで私は存在する価値があったし、誰もがそれを望んだ。決まった時刻になると、召使が食事を作り、私に差し出す。睡眠や散歩といったものは単なるさじ加減だ、嫌ならするひつようはない、だが私はそういうものが好きなので、飽きもせずにその循環をひたすら繰り返す日々を送った。
もし私が本当に資本主義時代の覇者そのものならば、私が実際に過ごしたような日々は退屈極まりなく、金を稼がない毎日に意味などないと憤慨していたに違いないが、それは私にとっては見事に当てはまらない無価値なことだった。資本と呼ばれるものは私の価値観のはるか彼方の隅に追いやられている。
しかし、それはクリスマス・イヴの前日にやってきた。
まるで変化のない、永遠に交わることのない平行四辺形の一辺が描く水平線のように続く毎日を味わい、見かけだけは守銭奴の資本家よろしく醜く太った私のもとに、いつもどおり召使がやってくる。彼らの仕事はただ私に食事を提供するだけのはずだった。ところがその日は彼らの様子が違った。
少なくとも私には何の理由も思いつくことができなかった。しかし召使の太い腕は容赦なく私の首を締め上げ、そしてへし折った。
それは突然起こった。何の兆候も見せずに。そこには何かしらの理由というものは完全に存在しなかった。