第123期 #14

『さよなら二十世紀くん』

 あの頃の僕ら三人、とても仲が良かった。
 テレビでは賑わっていたけれど、クラスでは学校の怪談だとか正義の味方だとかその手の話はだいぶ廃れてしまっていて、体育館に首のない少女がでたと吹聴したら、見に行くべと駆け出したものの実際いるはずもなく、まぁいねえよなそんなの、って隣のやつに言われたのが印象的だった。信じていないと言いながら気持ちの大部分では信じていたんだろう。そういうところ波長が合うんだなと思ったりもした。

 通学路の途中、稲荷神社の庭におおきな岩が転がっていて、夏休みだったろうか、古い布切れをまとったこどもが座っていた。舐める飴とか髪型とか、明らかに平成の趣きからかけ離れていたし、なにせ神社の敷地内だし、夏だし、ほんとうにあった怖い話のような話に出逢ったんだろうと友人界隈で騒ぎになった。おもしろいのは、ある友人は兵隊のカッコに見えると言い、ある友人は赤いちゃんちゃんこ、と見える衣装が違うのだった。
「うぬら、がきども。空は青いか、土は冷たいか」
 名付けたのは誰だったろう。いまとなっては自ら名乗ったようにも思えるぐらい、彼は普通にことばを喋った。神社を囲んだ杉の木がざわめく、ポケモン世代には古風すぎて笑えた。

 季節は一巡して、あの日が来る。
「うぬだけか。どうした、花の芽食うか」
 ひとりで訪れるのは初めてだった。砂埃が吹き舞うなかから伸びてくる手。まだ芽吹いたばかりの千切られた桜の芽、思わず飛びついてしまいそうになるくらい丸々と太っていた。
「食わんか。んだ、うぬはまだ食わん方がええ」
 手は下げられ、栗を転がせたような声は風に攫われた。
 彼とはそれっきりだった。近所の駄菓子屋で菓子パンを買って頬張った。曇りを溶かしたような味。あっという間に駄菓子屋も消えてしまい、神社の細道も舗装されて綺麗になった。あの日、春だった。その年、小学校を卒業したのだった。学区の違いで、他二人とは違う中学に進学することを、ずっと根に持ちながら過ごした世紀末の春だった。

 僕が見ている青空は誰かと同じ青空ではないのだし、ちんけな襤褸を纏ったこどものことも僕しか知らないはずで、どうしたもんかなと考えている。二人に連絡しようとも連絡先しらないし。だから今では芽を食らいつかなかったこと後悔してたりする。
 だなんて、今じゃそれすらも笑ってごまかせるから、もう二十一世紀なんだなぁって寂しく思う春がまた来る。



Copyright © 2012 吉川楡井 / 編集: 短編