第119期 #2
私は正直な人生を送ってきた。
意識したのは、中学生の頃である。
いま思うと、私はよく嘘をつく子どもだった。何かというと嘘をつき、先生や友達を困らせた。それも大した嘘じゃないのだが、そのほうがかえって信憑性がでてしまうのだ。
すべて、父の影響だったのかもしれない。
優しく家族想いで勤勉な父だったのだが、だらしないところがあった。それに、父は母や近所のおばさんよりもおしゃべりだった。彼はたまに、大胆な嘘で僕らを驚かせた。あるときは姉が大好きだったアイドルが死んだだとか、またあるときは自分は癌だとか、重い嘘をつくのだ。
そんな父ももう衰弱していた。
身体は痩せ細り、骨はその骨格を露にしていた。
あるとき、父は自宅で倒れ、病院に運ばれた。
私は急いで病院に向かった。
病室で見た彼は思った以上に元気そうであったし、大丈夫だろうと思った。
「父さん、大丈夫?」
と近づくと、彼は私と二人きりの病室でこう言った。
「愛してるぞ」
その言葉を最後に、彼の脈拍数は少なくなっていき、やがて、ゼロを迎えた。
彼のその最後の言葉。私は今でも忘れることができない。嘘つきな彼が初めてはなった正直だと信じたいから。