第118期 #12

Egg Separator

 大鍋に水を張り、コンロの上に乗せて強火にかける。まな板を用意し、玉ねぎ一個を半分に切り、半分はみじん切り、半分をくし切りにする。それをまとめてフライパンに流し入れてエクストラバージンオリーブオイルをたっぷりかけ、中火にかける。コンロに乗せた大鍋の水が沸騰するまでの間、フェットチーネのパスタを一握り掴み、冷蔵庫から卵一個とパンチェッタを取り出しておいておく。玉ねぎをゆっくり炒めながら、パンチェッタに1cm幅にスライスして塩こしょうをまぶす。玉ねぎが少し透明になってきたところで、パンチェッタをフライパンに入れて合わせて炒める。
 イタリア人の友達のレシピによると、イタリア式のカルボナーラは生クリームは使わないし、卵黄と卵白わけることなく両方使う、とのことだった。パンチェッタをわけてもらい、簡単だから試しに作ってみろ、と言われたので作ることにした。
 フライパンの様子を見つつ、大鍋の水が沸騰したのを確認し、水が少し白く濁るくらいに塩を入れる。取り分けておいたパンチェッタを鍋の真ん中に垂直に立て、鍋のふちで均等に開くように、時計回りに少しねじり離す。鍋に全て沈め、時間を計る。パンチェッタに焦げ目がついたのを確認し、フライパンの火を止めた。
 一段落して、確かに簡単だなと思いながら、一息ついていると、そんな様子をエッグセパレーターが見ていた。彼は陶器製で、頭が極端に大きい鶏の姿をしているが、その頭はおでこの上で水平に切り取られ、脳があるはずの部分は空洞で、その空洞は彼の口と繋がっていた。彼の役割は、その空洞に入れられた卵を卵白と卵黄に分け、口から卵白のみ吐き出すことだった。

 彼は「おいしそうだね」と言い、「それが本場式ってやつなのかい?」と続けた。うん、そうらしい、と答えると、
「ところで、カレーライスは和食に入ると思うかい?」
と急に尋ねてきた。ちょっとわからないな、と答えると
「元々はイギリス料理だけど、でも日本で独自に改良されてきたものだ。そういう意味では、今では和食と言えるだろ?」
そうだね、と答えると
「卵黄と生クリームを使うカルボナーラはどうなんだ? 本場ではそうやって作らないんだろ? そう意味では和食だよな?」
ちょっと違うんじゃない、と答えると
「俺はずっと日本の為に働いてきた。日本が好きなんだ。俺は、俺を必要としている場所を探しに行くさ」
と言って、台所の窓から旅立っていった。



Copyright © 2012 だりぶん / 編集: 短編