第114期 #5

鳩の墓

 一軒おいて左角の半間米穀店の同い年のミツコとは仲良であった。 
 その日、二人は大森浜に遊びに行った。新川河口に架かる大森橋右手の土手の切れ目から砂浜に下りた。
 土用波が高く人影はなかった。私は暫く、砂地から偏平な小石を拾い、波打際で水切りに興じた。時には5回も石が跳ね返ることもあった。
 ミツコは土手下に咲くハマギクの白い花を摘んでいた。ハマナスが群生していたが、既に花期は終っていた。
 振り向くと土手の縁に海に向かい一列に鳩が10羽程止まっている。私の内部に縄文人の原始心性が蘇った。私は手に馴染む固い小石を探り、黒曜石の礫を握った。
 警戒心の強い鳩に気付かれないように匍匐前進していた。
鳩の飛散と私の礫の投擲は同時であった。礫は空気を切り裂き、飛翔する鳩の群を襲った。
 予期せぬことが起きていた。礫が鳩に命中し堕ちたのだ。それまで幾度もこの種の狩を試みたが成功したことは一度もなかった。全くの偶然であった。砂地に墜ちた鳩を両手で抱き上げた。まだ躯は温かく白い胸毛に鮮血が滲んでいた。瞼は閉じていた。無益な殺生であった。それまで感じたことのない悔恨の情で、私の躯が小刻みに震えた。自分の軽挙を嫌悪し、呆然と立ち尽くす私に、
【お墓をつくれば?】
 ミツコの提案である。彼女は私の掌の魂のぬけた鳩の遺骸を撫でた。土手の砂地に二人で墓穴を掘った。穴の底にハマギクの茎を敷き、鳩の躯を横たえた。乾燥した砂で穴を塞ぎ野菊の白い花を手向けた。
 浜風が強く地を這う砂の音が悲しく聞こえた。白波の立つ海峡の海は私の悪行を苛むように荒れていた。
 その日の夜、台風が函館を掠めた。次の日、二人で墓参りに大森浜に行っが、大浪で土手下の砂が浚われ鳩の墓は消えていた。6歳の夏の終りであった。



Copyright © 2012 高橋信也 / 編集: 短編