第114期 #10
ある時、お金持ちの主人が下働きの2人の女性、メルバとナージャにこんな命令をしました。
”ここから少し離れたところにひまわり畑があるだろう。わたしはあのひまわり畑で一番綺麗なひまわりが見たい。それぞれ、一番綺麗だと思うひまわりをわたしに見せてくれ。良い方には褒美を与えるとしよう”
ひまわり畑にやってきたメルバとナージャ。
「あの奥に咲いているのが一番綺麗だわ!あれにしましょう!」
メルバは夢中になって、手前にあるひまわりを掻き分けて、目当てのひまわりを手にしました。確かにそのひまわりは黄色い花びらをたくさんつけて、内側の円形の部分とのバランスも良く色も鮮やかでした。
一方、ナージャはというと畑の手前で立ちすくんで一向に花を取りに行こうとしません。元気に生き生きと、そして優雅に咲いているひまわりたちをただ鑑賞しているようでした。
やったわ、ナージャはやる気がないみたい。これはわたしの勝ちね!意気揚々とメルバは自分がとったひまわりを手にして先にお邸に戻りました。
「ご主人様!わたくしがあの畑で一番、綺麗なひまわりを取ってきました」
「メルバよ、このひまわりが一番綺麗だと言うのか? わたしにはこのひまわりは悲しげに首をもたげているように見えるが」
確かにメルバが持ってきたひまわりは畑で咲いている時とは違い元気がなく、しおれてきている感じすらします。
そして、その後ナージャがお邸に戻ってきました。
「ご主人様、わたくしもあの畑で一番綺麗だと思うひまわりを持ってきました」
しかし、その手にはひまわりの花ではなくスケッチブックが握られています。
「これを見てください」
そこにはたくさんのひまわりの絵が書いてあり、そのどれもが太陽の光を浴びて輝き、とても美しく描かれていました。
「わたしも最初はメルバと同じように奥のほうに咲いているとても綺麗なひまわりを見つけました。でも、そのひまわりを取るには手前にある他のひまわりをなぎ倒していかないといけません。それにこの畑に咲いていればあのひまわりはもっともっと綺麗に咲いていられる。なので、花は摘み取らずに絵にすることにしました。」
主人はやさしく微笑んでナージャの絵を手に取り、この絵はわたしが買おう。と言って100万ドルをナージャにわたしました。