第113期 #1
「……あら、ヨウジじゃない」
「ナミ! 一人か?」
「ええ。ここに座れば?」
「ありがとう。えっと、オーダーしなきゃ。……すいません、ブレンドとモンブラン下さい」
「相変わらず好きね。甘い物」
「別にいいじゃん。今日は休日出勤で、なんだか疲れたし……」
「あら、それでスーツ姿なのね。大変ね」
「哀しい宮仕えの身だよ。……そういうナミこそ、こんな洒落た喫茶店で女が一人でお茶なんて淋しいよなぁ」
「別にいいじゃない」
「彼氏いない暦何年だっけ?」
「三年よ。ヨウジだって前の彼女と別れてからそれくらい経つでしょ」
「そうだよなぁ。でも、もうそういうことにピリオドを打つつもりなんだ」
「ピリオド?」
「……実は、俺、結婚しようと思ってるんだ」
「結婚!」
「先日、親戚に勧められて見合いをしたんだけど、相手の娘に気に入られて、俺も満更でもないかなと思って……」
「……そう、それはよかったわね」
「喜んでくれるか?」
「当たり前じゃない。ヨウジは大事な友達だもの」
「そうか。ありがとう」
「今度、相手の人を紹介してね」
「ああ」
「……はい、もしもし」
「ナミ? 私よ、エリカ」
「ああ、エリカ」
「聞いたわよ。ヨウジが見合い相手と結婚を考えてるって」
「らしいわね」
「らしいって、それでいいの?」
「……何が言いたいの?」
「あんた、本当はヨウジのことが好きなんじゃないの?」
「な、何言ってるの。馬鹿馬鹿しい。ヨウジのことはずっと友達として好きなだけよ」
「本当に?」
「そうよ。……じゃあ、夕食のカップ麺が延びるから切るね!」
「ちょっと、ナミってば……」
「……ってことは見合い相手が元彼とよりを戻して、ヨウジはふられたってことなの?」
「そうなんだよ、ナミ。デートの最中に野郎が来て、有無を言わせずに彼女をさらってったんだよ!」
「ドラマみたいね」
「感心するなよ!」
「でも、式の当日にやられるよりもましよ」
「あのなー」
「そんなに落ち込まないでよ。そうだ、新作のケーキでも食べましょう。私がおごるから。……すいませーん、キャラメルムースケーキ二つ下さい」
「ああ、女性不信になりそう」
「何言ってるの。女は彼女だけじゃないのよ。……ヨウジのことを想ってる物好きな人が、どこかにいるかもしれないじゃない」
「どこかに?」
「案外身近にいるかも」
「うーん、大体が人妻か彼氏持ちばかりだからな」
「……そのうち分かるわよ」