第112期 #5
僕には自信がない。ゼロ、もしくはマイナスと言っていい位自信がない。そんな性格なので友達らしい友達もそんなたくさんいた例がないし、ましてや彼女なんてといった感じだった。
去年までは。
去年の冬、例に漏れず友達はいなかった。強いて言えば学校帰りの古本屋で捲る日焼けした本や漫画が唯一の友達だった。僕はその日、やたらとギャグ漫画が読みたかった。昔流行った漫画に浸り始めて約10分、隣から必死に笑いをこらえた声が聞こえる。聞いたことのあったその声、ゆっくりと左を向くと同じクラスの女子だった。僕はやけにその光景が新鮮に思えた。その娘は教室では男女共に慕われて品行方正といった言葉の似合う人だ。そんな人が古本屋で漫画読んで笑いをこらえてるなんてあり得ないと思えた。すると、彼女はこちらに気付いて慌てて本を棚に戻し、僕の手首を握って店の外へ向かった。通りの隅で「漫画読んでたことは内緒に」と頼まれた。聞くと、厳格な家庭で娯楽は禁止になっているらしい。漫画が好きかと聞かれたので好きだと答えると、彼女は帰り際に「君とはいい友達になれそうだ」と言ってきた。彼女の姿が見えなくなったあと、自分の心拍が煩いことにやっと気付いた。その音がやがて僕の初めての「自信」になった。