第112期 #1
めえさんはすこし風変わりな性癖を持っていました。風変りなんて評すると、めえさんは気分を害するのですけれど。
「はじめてそう思ったのはね、ドラえもんを映画館で見ていたときだったと思うわ」
「ドラえもんって面白いわ。子どもっぽいと思われたくないから、あまり人には言わないのだけど」
「しずかちゃん、て分かる? そう源しずか。いい名前よね」
「わたしの名前はどう思う?」
「それって嘘でしょう。わたしはわたしの名前をそれほどよい名前だとは思わないわ。嫌いというわけでもないのよ。まあユニークだと思うていど、かしら」
「それでね、そのしずかちゃんが悪党に縛られる、の。映画のなかで。子ども向けの映画だというのに、ずいぶん破廉恥だと思うわ」
「で、それ以来、わたし、ちょっと癖になってしまったの」
「分かるでしょう。そのあなたに渡した縄をどう使えばいいのか」
部屋にはボクしかいなかった。
しかしボクのような、ただの使用人が、お嬢様にそのようなことをしてもよいのだろうか。
お嬢様を名前で呼ばせて頂くだけでも、恐れ多いというのに。
「じらしているの?」
と、めえさんは、真赤な唇をまげてほほえんだ。
ボクの理性は揺さぶられ、ほんとうに、どうかしていたと思う。
でも言い訳じゃないけど仕方なかったし、ボクだって楽しくてしたわけでなくて、興奮はしていたとおもうけどドキドキというよりはゾクゾクだったんです。
このスリルを恋愛感情と勘違いするのはボクにとってもお嬢様にとっても、よくないことだと思うのです。
ボクは間違っているのでしょうか。間違っているか、いないかだと、限りなくアウトな気がするのですが。ああ旦那さまにばれでもすれば……。
と昨日のことをひとりで後悔。