第11期 #20
岩場の割れ目に足を挟まれ気絶していたのは原住民の美しい娘だった。シュウはレーザー銃で慎重に岩を切った。足の怪我はひどく、娘を背負い基地に運び、医療室で手当した。ベルが鳴ってレギュラー番組の開始を告げた。シュウは急いでモニタの前に座った。
「お昼休みはウキウキ・ウオッチング! 今日から火曜日のレギュラー・コメンテーターは、太陽系から四.三光年、ケンタウリ調査団唯一の生存者、シュウ・フルヤさんです。聞こえますか」
「聞こえてるで」
「あの人は今で人気沸騰したフルヤさん、どう感じてますか」
「わしの母ちゃん浪速娘。突っ込みは任せとき」
「植民団が旅立ったのが三百年前。すぐに連絡が途絶えようやく二十年前調査団が到着。先遣植民団は文明を忘れ原住民化。調査団は原住民と風土病に襲われ次々死亡。医者であったフルヤさんの母は現地生れの人間だけが風土病を免れることを突き止め出産するもその後病死。以来フルヤ少年はたった一人で基地を死守してきたのです」
ハイパー通信システムで時差なく地球と連絡はできたが、調査団を送りこんだ世界連邦は瓦解、地球では自由同盟と義勇連合に分かれ、泥沼の戦争が続いていた。
「今一番欲しいものは何ですか」
「金や。金くれや」
「何に使うんですか」
「生活費やんけ」
風土病で植民計画中止、戦争で地球の人口問題解決。世界連邦は既になく、もう人は来ない。しかし基地機能の停止は父母の遺志に背き、調査団の全滅を意味する。シュウは地球の商社から無人光子船で必要品を購入するつもりだ。そのためには自分で稼ぐしかない。
「地球での戦争についてどう思いますか」
「戦争反対。そんな暇あったら、たこ焼き器送ってや」
スタジオがどっと沸いた。自由同盟日本州は平和な母の祖国でありどこよりも気前よくギャラを払ってくれる。彼らの機嫌を損ねてはいけない。
娘は数週間で歩けるまでに回復した。彼女の部族は蛮族に侵略されていた。蛮族は調査団を殺戮したのと同じ奴等だった。シュウはコンピュータに現地の地形を打ち込み軍事データベースを検索した。シュウの指導で土嚢が積まれ投石器が作られた。平和な部族は奮闘し、遂に蛮族を追い払った。シュウは部族の晩餐に招かれた。シュウが助けたのは酋長の娘だった。
「シュウ、私と結婚する。王になる。ここに住む」
「君を守る。他のことはまだわからない」とシュウは答えた。
レギュラー番組の出演時間が迫っていた。