第109期 #3
研二の部屋に泊まるのは三度目くらいで、私もだいぶ男の部屋という空間に慣れて来ていた。それでも予想もつかない場所からマニアックな本が出てきたりしたら困るので、私は置物みたいに正座でじっとして動かない。
「なんか固いな」
とか言って、研二は私の頬や太ももを突つく。
「柔らかいでしょ」
私が挑発的に言うと、「いや、表情のはなしだからな」とか研二は真面目に答える。その天然のノリの悪さに私のほうは冷めてしまう。
「お風呂貸して」と私は言う。
「ああ、いいぜ」と研二は応える。
とりあえず、暖を取らないと。
お風呂から上がって冷凍庫を探ると、抹茶アイスが見当たらない。
「私の抹茶アイスは?」
「ああ、食べた」
せっかく今日のために買ってきたのに。私は本気でキレそうになるけれど怒りを爆発の寸前で静める。
「夜にあんなの食うと眠れないぞ」
だから、……眠らないために買ったのに。
私はいつも研二よりも早く寝てしまって、朝起きると額に変な落書きを落書をされたりと悪戯をうける。それがくやしくてくやしくて。この怒りのエネルギーで今日は研二よりも遅寝をしてやるぞ、と私は拳を握る。
結果から言うと、私はどうやら研二よりも先に眠ってしまったらしい。でも何も落書きとか悪戯されてなくて、テーブルに抹茶アイスと小さな紙が置いてあった。
「ちょっと出かける、それでも食べとけ」とぶっきらぼうな文字。
ほんのり甘くちょっぴり憎い。アイスのはなしですか? いいえ、研二のはなしです。