第108期 #8

トキ襲った動物は死をもってその罪を償え

めええええええ、と鳴いてトキは死んだ。差し出した美味そうな肉をついばむこともなく死んだ。突然襲われたのだ、襲った相手はそんなに深く考えていない。自分のやったとこに対する重みを全く感じていない。山に住む純朴な力士だった。力士は生き物を捕まえ焼いて、あるいは山の植物を摘み焼いて生きていた。眼の前にトキがやってきたらそれはごちそうだと判断しても無理はない。力士の強烈な一撃を受けてトキは瀕死状態、力士は獲物をまず瀕死にし、しばらくほったらかしにして、また取りにくるという習性がある。その間に熟成すると考えているようで、そのしばらくの間にトキのもとにやってきた俺であった。この珍しい鳥をこんな目にあわせてなおかつ焼いて食うなんて野蛮、力士のやつめ、と俺は思った。それで、その重い罪を償わせるために俺は鎖帷子とチェーンをもって力士の住む洞穴に足を踏み入れた。中は完全な真っ暗闇で、目が慣れるまで、もしここで力士が突っ張りを噛ましてきたなら俺は終わるな、などと嫌な想像をしてしまったが、目はすぐになれ、ぼんやりと見えてきたそこに、子力士が4匹いる。子力士は肩を寄せあい、こちらを興味深そうに見ているではありませんか。俺は警戒心を解いて子力士に手を差し伸べる。こんなにも無邪気な力士がトキをあんな目にあわせているのだ。惑わされてはいけない。自分に言い聞かせながら、子力士を引っぱり上げ、一匹一匹断髪していく。力士にとって断髪は存在の消失であるから、断髪した子力士はみるみるうちにしぼんでモデル体型になってしまう。そして横綱審議委員会に立候補するものや、相撲解説者として大成するもの、アメリカンフットボールに挑戦するものなど様々、俺は人生の岐路に立つそいつらを見ている。うまくいけばいいな、とつぶやいてみる。もうトキにちょっかいだすんじゃねえぞ。と、そのとき、洞穴に、スポンサーの看板をもった人々がどんどん入ってくる。永谷園やらソフトバンクやら、洞穴の中を一周周り、外へ出て行く。力士が帰ってきた。何者かが自分の洞穴の中に入っていて何かよからぬことをしていると感じ取り、臨戦態勢になっている。行司の木村某がついてきている。俺は手をついてみあった。制限時間一杯。見合ってみあって。はっけよい、のこっ!



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