第106期 #7

和尚だからって一人称をわしと言わん

俺和尚
夢破れ
家継いで早十年過ぎ
毎日村中法話
垂れ流して駆ける

違う俺
決して
ただの和尚
には成り下がらん

眼の
前にある遺影
本日読経
する相手
俺にはすぐにわかった
ずいぶん変わったが
かつて俺がいと愛した人
給食のおばちゃん
おばちゃんというから当時
40ぐらいの歳かと言うとそうではなく
彼女は
学校の誰よりも若い大人
しかし
かつての俺たち不器用
給食のおばちゃんとしか呼びようがなく
知らなく
だから
いつまでたっても彼女は
給食のおばちゃんだった

見ろ
白黒のおばちゃん
そのこぼれるような笑顔
あの頃と何ひとつ変わらなく
読経の途中
なくす言葉
ぼやける給食のおばちゃん
山田和尚
ひとときの沈黙
騒ぎだす
親族外野は黙っとれ

深呼吸

では君に
祈りとともにこの歌を捧げよう
聞いてください

南無妙法蓮華経



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