第106期 #10
森に行ってはいけないよ、と聞いたので彷徨っていたら狼に処女を奪われた。
初めては何だか痛くて息苦しくてくすぐったくて汗まみれで、涎に塗れた気がする。
狼が私の黒髪を撫でる。撫でながら腰を振っている。何発撃つ気だこいつ。
私はそろそろ涙も声も痛覚も枯れてきたので、乳を揉むのに両手を使ってる狼の隙をうかがい、砂を目にかけてやった。
ぐぅっと、くもぐった声をもらす狼。怒声が出る前に無駄に太い男根を腰の動きで引き抜いて、麻痺した感覚のまま狼のタマを豪快に踏み潰す。
狼が弓なりになって甲高い一声を漏らしたかと思うと、そのまま蹲ってしまった。
股からぼとぼとと体液をこぼしながら、ふらふらと私はその場から去る。
どれだけ走っただろうか。どこに道があるのかわからないまま、私は夜を迎えた。
失ってしまったものを補うかのように、下腹部が痛みをぎゅうぎゅうと詰め込んでくる。
涙は出ないが、なんと言うか、悔しさはひどい。乾いた悔しさであって、湿ったそれではない。今すぐ鋭さに転化できるような……そんな、銀色めいたものだ。
処女を捧げたかった彼女も、あの狼に処女を奪われ、喰われたのかな。
男のもので奪われる想像なんてしていなかったから…… お月様も笑っている。
……私は何故ここにいるんだっけ?
……敵討ち? 好奇心? 愛?
どうせ歩くのも疲れたのだから、少しばかり回想したっていいじゃないか……
――日の光の下で私は口付けをする。
彼女の金髪が、ひまわり畑に溶けてしまいそうなぐらいに輝かしくて、愛おしかった。
日の光の下で、彼女は私のおでこに口付けをする。
それは、決別の証。
想いを違えた場所。その証明……
私は彼女が欲しいのに、彼女は私を必要としていない。
私も狼と同じなのかもしれない。狼と同じで、彼女の金色の髪と金色の瞳と、白い肌と、固く閉ざされた膣を、この指で、この人差し指で、味わいたかっただけなのかもしれない。
座り込んで、黙り込んで、彼女を想う。
もう一度だけ彼女に会いたい……
森よ、願いを聞き届けてくれ。
最後に、私が見た夢は。
彼女を、あるはずのない男根で犯すものだった。
ごめんねと言いながら。
ほんとうにごめんねと叫びながら。
痛みに歪む彼女の表情に、抑えようのない愉悦を覚えて……
* * *
……森の中に黒い狼の亡骸が一つ。
月を見上げるようにして、それは眠っていた。