第105期 #11

五日間の記録

一日目
今日から、いじめが始まった。手始めに僕の机に落書きがしてあった。
「死ね」「バカ」「消えちまえ」「アハハハハハ」
などなど。机の中身を調べたら、置いてあった教科書にも同様の落書きがしてあった。一部、切り刻まれていた。今日始まったいじめにしてはなかなか過激な方法だと思う。
だが、同時に感心もした。机の落書きは水性で書かれており、消そうと思えば簡単に消えた。配慮のできる人間がいじめた人間の内にいたのだろう。
いじめられている者の心理としては、教師に知られたくはないだろう。という予測から僕は落書きを消して、何事もなかったかのように授業を受けた。

二日目
机の上に一本の花が入った花瓶が置いてあった。いや、供えられていたと言うべきか。
二日目にしてすでに死んだ事にされたらしい。早すぎる、もっと追い込んで自殺しそうな人間に見せるほうが効果的だともう。少なくとも、僕がいじめる側だったらそうするだろう。
それでも、花瓶が可愛かったので、貰って帰る事にした。花は持って帰るつもりはなかったので、手洗い場で水を捨てて、花はゴミ箱にいれた。
家に帰ってから調べたが、供えてあった花の花言葉に「悪口を言うな」というものがあった。なかなか洒落がきいている。

三日目
教室に入ったら、僕の机がなくなっていた。ポツンと残るイスには「中庭だよん、さっさと取ってこいや、ハゲ」と書いてあった。書かれた文字は油性である。イスなら教師に見つかる事はないだろうと思ったのだろう。机を中庭に投げといてその配慮はどうだろう。
とりあえず、僕は机を拾いに中庭に行く。
すると、上からイスが降ってきた。僕の横数十センチの距離に落下したイスを見る。危ないと思ったが、安全が認識できてからイスを見ると、足の部分が少し曲がっていた。
まあ、いいか……と思うつもりが、何を思ったか全く別の思考が頭に浮かんだ。キレてしまったのだ。

四日目
僕の教室はガランとしていた。人数分あるはずの机とイスがまるごと消えているのだ、当然だろう。
やったのは僕だ。中庭に落としておいた。
そして、黒板に文字を書いておいた。
「アハハハハハハハハハハ、タノシイネー」
それを見たクラスメイトはギョッとして僕を見た。だから、ニタッと笑いながら黒板の文字を読み上げてやる。

五日目
僕のいじめ事件は終わった。結局いじめられたのは三日間だけだ。言うなれば「最も短いいじめの内の一つです」といった感じである。



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