第103期 #2
はさみは双子だった
もう1人の名前は知らない
本当はどっちがはさみなのか知らないけど
僕は好きなほうをはさみ、と呼んでいつも話をした
ある日、僕が彼女を見つけて後ろから名前を呼んだ
驚いたように振りかえるとへらっと微笑んだ
はさみは可愛い
はさみは大人しい
はさみは聞き上手
僕は朝顔を摘んできて、袋の底に水をためた中に沈めると、花弁を1枚1枚指の先で解すとうっすらした青が幾重にも重なって色濃くしていく
「綺麗」
「どうして?」
「私、青が好き」
無邪気に笑っている君の顔が大好きなはずなのに、僕はその表情を塗りつぶすように色水をかけた
頭と襟と左手に潰れた花弁がへたり込んでいた
彼女は小さい罵声と共に左手を振り払う
ほら、君はいつも嘘をつく
何が綺麗だ
何が青が好きだ
お前が見ていたのは色水だけだ。結果しか見てない
その色を出したのは朝顔だ
お前はその朝顔を汚いと言ったな
お前の感動を生み出したのは朝顔なのに、どうして否定した
お前に感動する資格なんてない
経緯を見てたのに、結果しか認めないのは自己中心的過ぎるよ、はさみ
「もう僕はさみのとこ行くから、次はさみじゃなかったら許さない」
彼女は小さく頷くと、僕ははさみの元へ行く
「はさみ」
はさみは小さな染み1つない真っ白なワンピースでにこりと笑った