第103期 #1
激しく聞こえていた雨音が遠くなり、空にはいつしか紫紺の空が見えていた。
空に散らばる微かな星々と、確かに見える大きな月がそこに浮かんでいた。
だったら今日はあの場所へ。
雨上がりの冷たい風が頬をなで、少し厚着で外へ出る。
辿りついた場所には誰も無く、どうやら自分が一番乗り。
雨でおちた花弁は多いが、それでも木には色鮮やかな桜色。
持ち込んだ酒瓶は数多く、ぬかるむ地面にシートを敷いて。二つの杯に酒を注いで一つを手に取る。
さて、これで何時でも宴が始められる。
一人待ちぼうけの時を過ごし、杯片手にただ空を見る。淡い花弁の隙間から降り注ぐ星の光に目を細め遠くのどこかを眺めていた。
いつの間にか遠くからは誰かの宴会の音頭が聞こえてくる。
ふと緩んだ気分が、まどろみが瞼を重くした。閉じた瞳の中にはただ暗闇が。
何時しか夜も深まり酒も深まり、儚い思いを抱いて次の酒を注いだ時、そっと伸ばされた手の中には空の杯が。
待ち人はただ酒を求む。
その杯に酒を注いで二人で花も月も忘れてただ飲み明かす。
遠くに聞こえる宴を祭囃子に、言葉も無く笑い合う。
夢現の時間は過ぎて、遠く散りゆく記憶の中で、ただ失ったものを追い続け。
ただ何時までも果たされない約束に身を預け、巡り周りあの失ったある日の時間を求めてまどろむ夢の中で酒を飲む。
いつか終わると知りながら、杯を傾けただ今は飲みあうだけである。