第10期 #9
青年は生きることに疲れていた。僕は何のために生まれてきたのか。それは誰かに教えてもらうことはできない。だからこそ答えを見つけ出すことに焦り、それでも何もしない自分にジレンマを感じる。青年は自分の無気力さを嫌っていた。
こうなったらこう言おう。青年は言い訳を準備し、自分を守ってきた。何か後ろ盾がないと何もできず、言い訳という後ろ盾を用いることで成すことの勇気を得てきた。成す前に失敗を考えるから、物事がうまくいっても自分の力だと信じることができなかった。青年は生きる力に負けていた。
青年は通学に電車を利用する。人ごみに飲まれ、風景と同化し、青年の個は消え去る毎日。友人とほどほどに付き合い、決して特別な関係にはならず、それを恐れて、青年は望んで個を消し去る。そうすることが押し寄せる流れに身を守るための手段だったからだ。青年は時代の流れから脱線し、人生を放棄していた。
僕は生きているのかい……
僕は何のために存在してるの……
僕が死んで悲しむ人はいるのかい……
青年は何の行動も起こさないくせに、自分を認めない世間を恨んでいた。気持ちは一人妄想の世界へと溶け込み、その中での彼は英雄である。現実を視ることに恐れ、慣れ親しんだ空間に身を委ね、青年は未知への開拓を拒んでいた。
本当は誰よりも弱いのに、本当は誰よりも臆病なのに、能面を被り偽りの装束を身にまとい青年は演じ続ける。
小雨が降るある日の夕方、青年は草むらの中で、小鳥の死骸を見つけた。まだ羽毛も生えきっていない生まれたばかりの小鳥である。青年はしゃがみこんで小鳥の死骸を見つめた。
君は誰からも必要とされなかったんだね……
君は誰からも知られることがなかったんだね……
生まれた意味がないなんて寂しいじゃないか。
だから僕が君を覚えるよ。
道路という表舞台から離れ、草むらに死んだ小鳥を、青年は埋めて弔った。
本当は誰よりも優しいのに、本当は誰よりも愛せるのに、青年は気がついていなかった。しかし青年は小鳥を見て、漠然とだが自分の優しさに気付き始めていた。
生とは、何かに影響を与えることなんだ。それはどんな些細なことだっていい。それが生きている証なのだから。それが個として存在することだから…。小鳥は僕に優しさを気付かせるきっかけを与えた。
青年は立ち上がって走り出した。
青年には名前がある。青年の名前は……。