第1期 #5
江ノ電の鉄道員(ぽっぽや)の高嶋は暮れる夕日を見つめていた。輝く瞳は夕日を切なく滲ませていた。「駅長さん!」高嶋の背後に、くわえる部分は誰のとも知らない縦笛を喉の奥まで突っ込み嗚咽しながら声をかける少女がいた。「大丈夫かい?」高嶋はスクラッチカードを削るように少女の背中をさすった。焦げ臭い異臭が周囲に漂った。少女は縦笛を吐き出し高嶋に微笑んだ。「ごめんなさい。アガペーを感じたくて・・」うっこり少女の不機嫌な果実ぶりは高嶋を困惑させるとともに不思議と誘惑させられた。よだれでダラダラな縦笛をゴミ箱に投げ捨て少女はベンチに腰掛けた。いたずらな海風が少女の髪をもて遊ぶように激しく吹きつけた。高嶋は駅帽を飛ばされないように手で押さえながら、少女の隣に腰かけた。少女の瞳も夕日を滲ませていた。高嶋はそれに気づかないように話しかけた。「totoがまたお母さんにばれたのかい?」少女は東京から週一回離婚した母親の元に遊びに来てた。高嶋は母親から無事に電車に乗れるようにと頼まれていたため少女が駅を訪れるたびに彼女に注意を向けていたが、いつからか少女を何十年も前に亡くした自分の子供のように感じていた。自分がしっかりしていれば死なずに死んだ子供。トイレで大をするときは裸にならないと出来ない自分のせいで死んでしまった、自分の子供。母乳ではなくサッポロ一番のカス汁で育てた自分の子供。高嶋の心には一生外れない鎖がかかっていた。「totoはばれなかったけど・・」高嶋の問いかけにうつむきながら少女は答えた。高嶋はゆっくりと腰を上げた。「もうすぐ電車が来るぞ。」帽子をかぶりなおし、指をせんろに向けた。少女は高嶋のお尻にカンチョ−を二度かまし笑顔で高嶋をみつめた。高嶋はそんなことは気にせずに電車を迎えた。電車が運んだ、蒸し暑い風を浴びながら少女は口を開いた。「ごめんなさい。」電車の扉が開き、少女は電車に乗った。「なあに、おじさんに謝る必要はない。また何かいたずらでもしたんだろう?気にするな。お母さんも許してくれる」夕日に反射した高嶋の顔は真っ赤に染まっていた。少女は微笑み手を振った。電車の発射を知らせるベルがなるのを合図に高嶋は少女に敬礼した。扉が閉まり電車がゆっくりと動き出した。扉のむこうで少女が何かを言っていたが、高嶋にわからなかった。少女がいつもキセルしていることが母親にばれたことを。