第93期予選時の、#13前がみの人(香椎むく)への投票です(1票)。
髪には生気が宿る。それは怪奇小説では至極まっとうな理論である。魂の籠った人形の髪は伸び、幽霊はいつも決まって長い髪を垂らしているのである。詳細については『黒髪に恨みは深く -髪の毛ホラー傑作選-』を参照のこと。
さて、筒井康隆氏の短編『母子像』が怪奇小説でもあり家族小説でもあり、極めて上質な恋愛小説であるのと同じように、本作はSFのガジェットを用いながらも落ち着くところは恋愛小説である。(本家本元も恋愛小説であるかもしれないがそれはさておき)
透明人間という題材は今となっては古めかしいものでるが、髪を残したのがおもしろい。そして何より透明人間を語る上で欠かせぬ、衣服や食事への言及も(若干の都合のよさはあれど)実にさらりと書かれているのも嬉しい。おそらく作者は本来青春文学の書き手であり、本作はその延長線上に位置しているのかもしれないが、既存のガジェットを用いて斬新な作品を紡ぐという手法に秀でているとも見れる。無論、本作だけではそうと言い切れないので次回作も期待。
参照用リンク: #date20100620-111614