第83期予選時の、#12エゴいスタア(金武宗基)への投票です(1票)。
投稿作品を1番から順番に読んでいて、この「エゴいスタア」の番になったときは、正直なところ読みたくない、と思った。一応、読んでみたけれども、意味がわからない。わかろうとも思わなかった。
だが、全作品を通読した時点で、印象に残った作品を思い出そうとしてみると、まっさきに思い浮かんだのは「エゴいスタア」で、それが自分には不思議だった。なぜ、この作品が、意味もわからないのにまっさきに自分の頭に思い浮かんだのか?
読み返してみると、「この作者ラリってんのか?」という偏見はともかくとして、作品として何かがつよく繋がっている。あらすじはつかめないが、青年らしい男がじいさん相手に
「父親には言えないけど、俺ホストのバイトやってんだよ」
と、今まで少しうしろめたかったであろうことを告白する。すると、その爺さんが祖父なのか通りすがりの爺さんなのか、チャットの爺さんなのかはわからないが、とにかく爺さんは
「ポスト?」
と、ボケる。だが、それが本当にアホでいっているのか、わざと空気を軽くしてやるために、あいづちのような優しいボケなのか、それはわからないが、爺さんの「ポスト?」の一言が、青年にはうれしかったにちがいなく、
「そんなところだよ、(女たちに)しあわせをとどけてるからな」
と、青年は前向きになる。ここで、さらに「恋文は、よかねー」と言ってくれる爺さんの一言で、おもわず青年は泣いてしまう。
「煙が目にしみるぜよ」
……と呟いて涙をほろりと流す青年の、この涙には、もしかしたら、「(女たちに)しあわせとどけてんだからな」というさっきの自分の強がりが、ある意味ではウソであって、自分が女たちから吸い上げている金のせいで、廃人になった女が一人くらいはあったかもしれない、そんなことを思うとやりきれなくなるが、それでも肯定していかないと生きていけない自分もいて、そういうことを含めたいろんなモヤモヤが、爺さんの「よかねー、よかねー」の一言で、ふっきれて涙がでてくるのかもしれない。
↑などと、行間が読めてくると、もしかしたら、作者自身が1000字にまとめるには膨大な思いがあって、それを脱構築しまくっているのでは? と思えてくる。そうすると、これは相当に文学上の高度なテクニックとなってくる。おまけに、自分はこんなにも賢い、こんなにもテクニック使ってます、こんなに知ってます、というのがミエミエな小説ほど読みたくないものはないけれども、この「エゴいスタア」はどこまでも、そのテクニックを隠している。アホにみせている(本当にアホかもしれないが……失礼)。
最初の青年と爺の、脱構築化だけではなく、この話は600字ちょっとにもかかわらず、ここからパート2、パート3と話が続いていて、それもまた、言葉がめちゃくちゃのようにみえて、底の部分で、しっかりとビートを鳴らしているので驚きがとまらない。
私は「パート2」は回想シーンなのではないか、と思っている。ここでいう「これはペンです」という部分、実は、この「ペン」というのは青年のペニスのことで、青年がホストクラブで女たち相手にペニスを出して、「これはペンです」と英語で言っているシーンでは? そして女たちはそのペンに盛り上がってドンペリをいれている……そういうシーンでは?
すると……「ペンは剣よりつよかですか?」というシーン3のセリフは、さっき爺さんの前で泣いた青年が、おそらくは酔っぱらいながら呟いた独り言(ペニスは金よりつよいだろ)で、それを受けた爺さんが
「ぺんぺん草もはえねー」
と言って、なぜかそこにいる婆さんがワクワクしはじめて婆さんが「はーなーがひらいてーそーやんぐ」とうたいはじめたのではないか。そうすると、この青年を爺さんと婆さんが二人して慰めてやったことになる。
私は文学でも小説でも物語でも、呼び名はなんでもいいけれども、脱構築化された小説の根元には強烈な人肌のぬくもり(ドラマ)がなければ、それは普遍性を獲得しないと思っている。ただ語感がいいから、だけで表現になるなら、なんとなく音に対して失礼だと思う。
それで、ちょっとかっこつけて小難しいことを言えば、哲学者ジャック・デリダがデリダになれたのは、ただ脱構築をとくだけではなくて、彼が「正義」ということをそれがどう定義できるか迷いつつも信じていたからだ。たとえば許すということを、相手からの謝罪を要せずに許す、というような、ある種のゆるがない正義を獲得してから、デリダの脱構築はただの屁理屈ではなくなった。
……それを無理やり「エゴいスタア」に絡めると、この話がめちゃくちゃなのに、読めてしまうところは、この脱構築される前の、この物語の原型にあたる部分が、ものすごくきれい、というか、美しい話でつづられていて、それが、ここまでメチャクチャにデフォルメされて、脱構築していることすらこちらに気付かせないまでになってまでも、きちんと読めば、猛烈に好きになってくる話であることに気がつく、その粋な仕掛けに、ちょっとかないませんなあ、と頭をさげたくなった。
参照用リンク: #date20090831-113242