第112期決勝時の「なし」票です(3票)。
12 約束 戦場ガ原蛇足ノ助
「行政」とか「ゆるゆると」とか日常的なお話の中にあるからこそおもしろい言葉があるんだけど、どうしてこんなにも動詞に気を遣わないんだろうなと思った。
「まぶしかった」というのも、もっと五感を活かした形の表現方法があったと思う。思い出とのリンクポイントなのでもっとも気を遣うところだったのじゃないのかと。胃と書けば読者は胃に意識を向かせるし、刺激的な動詞を書けばそれだけで該当する筋肉に微弱な電気が走るんだってことをもっと信じて欲しいと思った。
3 自分の髪の毛で作られたクモの巣から動けなくなっても、情熱があれば苦境を乗り越えて なゆら
自分の中で解決してから書いたことなのか、書きながら解決させたことなのか分からないのですが、自己啓発のようでした。
小説がなんなのかっていうことはなかなか難しいですが、ただ、良い作品になるために昇るハシゴがあるとして、一番てっぺんが他人との共通理解、さらにフックアップだとするならば、下の方には自分の中だけの言葉、自分だけの理解になるんだと思います。
例えばダリは蟻を絵の中に描くんですが、ダリにとって蟻は死のイメージなんだとか。こういう説明しないと分からないモチーフが作品内に多くて、いやいや「なめこ」でないほうがもっと他人に伝わりやすかったんじゃないのか? といった執筆の間に何度も繰り返されるであろう問いかけの苦労がいともたやすく回避されているようで、ただただ自分のイメージがぐるぐるうごめいているだけの印象。
眺めることはできても参加はできない作品だなと思いました。
9 礫 三浦
何とも言えないなあ。単純に好きでないだけなのかもしれないと思いました。
もっと文体にめりはりがあったほうがいいなあとか、これってもう書きたいこと分かってるのにわざわざ分かりにくく書いてるんじゃないの? とか感じました。「靴屋」じゃなくてもいいんじゃないの? とか。
あれが足りないこれが足りないとかは思わないんですが、何か方向が違うんじゃないのかなあ、と目くらましでも受けてる感じでした。要するに、元気がないってことを、元気がなく書かれていることに違和感を感じただけなのかもしれないな、とも思いました。
15 ひとりぼっち無差別攻撃 ハダシA
これは率直にあんまり好きな趣味じゃないって言いきれます。好きじゃなくても、パワーがある時はぐっと来るんですが、今回はあんまりぐってこなかった感じでした。
16 秘密 euReka
イメージがとっちらかってる印象。ミカン、城、煮干しとか、結合していないで散乱している感じ。「床に静止した冬のミカンに色鉛筆を突き刺した。」というのが鮮明に思い描けただけに、どうしてかなあ、と思った。とにかく名詞だけをつらつら並べただけのように感じてしまう世界で、例えば副詞や動詞なんかにも気を遣ったらいいのになと思いました。
「しかし色は何色でもよかったし、ミカンじゃなくてリンゴでもよかった。」というあたりが何か無作為に書かれてるんじゃないのかなと疑いを持ったきっかけだったのですが、太陽を想わせるオレンジのミカンに冬を感じさせる青い色鉛筆を突き刺すから意味があるんであってそれ以外じゃ成立しないだろう、と思ったんですが、作者にとってはどうでもいいことだったのかなあ、と感じました。まあこの青が夏の青だったのかもしれませんが。
名詞にも副詞にも動詞にも季節、色、味、重さ軽さ、そういったものものが確実に存在する、とは考えてないのかなと思いました。
参照用リンク: #date20120204-212931