第95期 #29

世間話

「お坊さん、どうされました」
「いやいやこれは失敬。鐘をごんごんついとりましたら、ぎっく り腰になってしもうて。立てなくなっておったのじゃ。貴殿には 見苦しい所をお見せして仕舞って」
「そうでしたか。それはそうとあの件はどうなりましたか。イラ ンからイラン製の自転車が届いたと言うあの件は」
「ああ、あの件か。うん、わしん所も世の中のIT化に対応せねば と、ブログを開設して宣伝しとったら、あんな物が届いてしもう て。確かイラン製は輸入したらいかんのじゃ無かったか。たとえ 個人的な目的でも」
「いや、私は知りませんが。それよりもあの自転車、見た所軍事 目的で造られた物ですよ。ちょっとやばいんじゃないかと」
「それこそわしには分からんよ」
「お母さんの件はどうあいなりましたか」
「うん、その事よ。わしの実母はMHKのラジオ中国語放送の講師 をやっておった。ラジオだし天下のMHKだから、結構せこい苦情 がたくさん届いて来たと聞いた事がある。例えばマイクに少し多 めに息が吹きかかっただけでうっとおしいとか、紙の音が聞こえ て来るのはどう言う訳かとか、とにかく細かいし多いとか」
「それはそうとあの民事の件は」
「あれはわしが何も悪くないじゃろ。花の名前や特徴が解説して ある橋で女児が裸で出て来たのを、あ、かわいいと思ってデジカ メで撮っただけじゃ。挙句の果てには下着姿の女児まで出てきお って。かわいいと思ってすかさずシャッターを切るのは自然の流 れじゃろ。それをもうお布施は払えませんとは何と不自然な所業 じゃ。わしこそ訴えてやる」
「まあまあそう興奮なさらずに。少しあなたのマイナス面を思い 出させ過ぎて仕舞いました。私の不徳の致す所で。ところで、最 近伊井直弼の自伝を出版なさったようで」
「うむ。あれは畢生の大作じゃ。出版社のやつめ、是非出版させ てやって下さいと三顧の礼をとりおった。自費出版じゃないから な。売れるかどうかは分からんが、全て出版社持ちでわしの負担 は一切無しの出版じゃ」
「そうでしたか。でも、最近大腿骨の手術をされたとか」
「うむ、左足の大手術じゃった。名医のな、あの、ほれ、名前が 思い出せんが、あの、まあ名前は忘れたが、やつめ、わしがホッ トコーヒーを飲みながらくつろいで居る最中に手術を終え居っ  た。どうやったかは口外出来んがな。水曜日の事だった」
「へーえ。企業秘密ですかね?」 



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