第80期 #6

自殺願望

「今から死のうと思うんだ」
 俺はポツリとつぶやいた。隣にいる友人が、心配そうに声をかけてくる。
「おいおい、馬鹿なことを言うなよ。一体、原因は何なんだい?」
「俺の体は病気に冒されてるんだ。他に例のない奇病らしい」
 そうなのだ、俺の体は悪性のウイルスとでも呼ぶべき存在によって蝕まれている。突然変異種であるそいつらは瞬く間に数を増やし、今や俺の体中が奴らのねぐらだ。
「うーん、確かにそりゃ聞いたことの無い例だな。体の具合は悪いのかい?」
「酷いもんだよ、体中が毒まみれなんだ。熱も少しあるみたいだ」
 こいつらの恐ろしいところは、その繁殖力と進化のスピードにある。あっと言う間に体中に広がり、様々な症状を引き起こす。
 おそらく俺の体も長くは持たないだろう、くたばるのは時間の問題。ならせめて、最期は苦しまないように自分の手で幕を引きたい、尊厳死というやつだ。
 そう告げると、友人は悲しそうにうなずいた。
「分かった、そういう事情なら止めはしない。しかし、君の症例はある意味貴重ともいえる。少しもったいない気もするな」
「おいおい、当事者じゃないんだからそんなことを言えるんだよ。なんなら分けてやろうか? 実際、こいつらは君の体にも興味を持ってるみたいなんだぜ。ほっとくと移り住むかもしれんぞ」
 そう言うと、さすがの友人も後込みしたようだ。
「すまん、そりゃ勘弁だ……それにしても寂しくなるな、君とは本当に永い付き合いだったもの」
「まあ仕方ないさ。ま、他の連中にもよろしく言っておいてくれよ。じゃあな……」


 ――その日、地球は自殺した。火星の見守る前で…… 。



Copyright © 2009 ゆうき / 編集: 短編