第79期 #25

なぜ俺は殺人を犯したか

俺は、公園のダンボールの中で、目を覚ました。携帯で日雇い仕事をしている。今日もよれよれの背広を着てありついた会社で電車に乗った。

俺は、車内に、俺そっくりな男が乗っていることに気づいた。いかにも一流のサラリーマンに見える。俺は羨望と同時に得体の知れない衝動に駆られて男を追った。

会社と、職場を突き止めた。家庭も突き止めた。

俺は、公園のダンボールに戻ると男と入れ替わった夢を見た。
しかし、似ているだけでは、すぐばれる。その時、記憶喪失が浮かんだ。俺に殺意が生まれた瞬間だった。

俺は、スコップを購入すると、男が公園の真ん中に来た時、男の後ろからスコップで頭を殴った。
俺は背広を交換し、背広の内ポケットにアルミのケースを男のそばに捨てた。スコップで四十センチ位掘ると、男を埋めた。
俺は男を埋めると、また駅前に戻り、タクシーの前に飛び込んだ。

目が覚めた時、病室にいた。妻と娘、医者、上司らしい男がいた。
俺は、車の事故で記憶が無いと言った。
こうして俺は、三ヵ月後退院し、会社に復帰することになった。

翌日、T部長に呼ばれた。
「他人には言えんが、官庁のワイロの件だよ。いざという時のために、証拠のテープを取っておいたろ」

二ヶ月後、会社に警察の取調べが入った。
大臣運転手が白状したからだ。しかし、運転手は謎の死をとげた。
「巨額の談合事件、証言の運転手謎の死、警察惨敗か」の記事が載った。

公園の仲間が記事と写真を見た。「これあいつじゃないか?」すぐ交番に届け出た。

俺が、家を出ると、黒塗りの車から、二人の男が出てきた。

「お前、男を殺して、成りすましたな」刑事の尋問は昼夜問わず行われ、5日目に男を殺して成りすましたことを自白した。
翌日、俺は刑事たちを男を埋めた公園の場所に案内した。

掘ってみると、背広とアルミケースしか出てこない。俺は、絶叫して気絶した。

目を覚ますと、取調室だった。
「奥さんの話だと、仕事の件で怯えていたそうだ。公園の仲間に聞くと、君が居るのは土、日だけで、いつもダンボールの中に居た。携帯にはアルバイトのサイトに連絡した履歴がない。そして公園の君が、サラリーマンの君を殺してしまった。それから、アルミのケースから、労厚大臣の談合の様子が録音されているマイクロテープが出てきた。君のおかげだな」



Copyright © 2009 中村 明 / 編集: 短編