第6期 #21
「ごめん遅くなって」
蘭が舞の家に着いたのは1時半になってのことだった。
「早かったじゃないの蘭、外は寒いから上がってらっしゃい」
出迎えてくれたのは舞本人だ。
舞に連れられて部屋に入ると、パーティの準備は既に済んでいた。壁の時計を見て、開始時刻が12時半ではなく2時半だったことを蘭は思い出したが、その直後、視線はクロゼットを開ける舞に移った。白いレオタードにレースのスカート、そして脚には光沢のある褐色のタイツという服装だ。
「バレエの練習か何か?」
「アメリカでの習慣よ、お祝い事の日ぐらいは着飾らないと」
クロゼットからは十数着ものレオタードが現れた。
「これなんかどうかしら」
舞は蘭に、短いフリルスカートの付いた黄色のレオタードと、白いタイツを手渡した。
「蘭もダンスを習っているなら、こういうのはよく着るでしょう?」
「私はジャズダンスだから」
パンツルックしか着たことのない蘭にとって、レオタードは勿論、タイツすら初体験だった。体に密着する素材。そしてレオタードが胸から下を吊り上げる感覚。確かに窮屈ではあったが、不思議と不快感は無かった。
「ね、そんな悪くはないでしょう?」
「いいけれど、このままパーティに出るの?」
「他の子も派手に着飾ってくるから、それぐらいやらないと」
二人は姿見の前に並んだ。鏡に映る舞と、未知の衣装を纏った少女。それが自分自身ということに気付くのに、蘭は少し時間を要した。
2時半になり、友人達を加えて始まったパーティは、ちょっとしたファッションショーになった。
「皆こんな可愛い服を隠し持っていたなんて」
「そういう蘭もどうしたの?レオタードを着て来るなんて」
これは舞が、と言いかけた蘭を遮ったのは舞本人だった。「蘭もダンスを習っているから、レオタードぐらい持っているもの。そうでしょう?」
いつの間にか自分のものにされてしまったらしい。しかし蘭は全く不愉快さを感じなかった。今までにない衣装を着て、皆に誉めてもらうのがこんなに嬉しいことだなんて。夢の時間はパーティの終わりまで続いた。
帰り際、蘭は着てきた上着とコートを舞から受け取った。
「本当に持ち帰ってもいいの?これ」
「プレゼントのお返しよ。それより上着を忘れない様にね」
蘭は少し考えた後、上着はバッグにしまい、レオタードの上に直接コートを着た。
「誕生祝いにレオタード…結構いいかも」そんな事を考えながら、蘭は家への道を駆けていった。