| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 例の名前 | 蘇泉 | 729 |
| 2 | 民間人と軍人と、英雄 | euReka | 1000 |
「監督!」 アシスタントが困惑した表情で部屋に入ってきた。 「新しいドラマシリーズですが、困ったことになりました。脚本にある架空の町の名前、もう使えません。行政調整の結果、その名前の町が実際に誕生してしまったのです」
監督は椅子に深くもたれかかり、首を傾げた。 「そして、」アシスタントが続ける。 「劇中の架空の大学名も使えません。まったく同じ名前の私立大学が認可され、設立されたのです」
「それは弱ったな。事件の舞台はその町だし、探偵の出身校はその大学だ。急に脚本を変えたら、すでに放送した前作の部分と矛盾してしまう」 監督は渋い顔でタバコをくゆらせた。 「……まあ、いい。数日間、その問題を練るとしよう。脚本は一旦そのままで進めてくれ。下手に実在の団体名を使うと、風評被害だと騒がれかねないからな」
数日後、監督は名案を思いついた。 「わかったぞ。これなら文句は出まい。町の名も大学の名も、いっそ記号にしてしまおう。どこにでもある『Z市』の『X大学』だ。これなら現実と被る心配はない」
しかし、報告を受けたアシスタントの顔は、以前にも増して青ざめていた。 「監督、それが……ダメなんです。先ほど総務省から通達がありました」
「今度はなんだ」
「行政のデジタル化を推進する一環で、例の新しい町は、事務処理を簡略化するために正式名称を『Z市』に変更したそうです。そして例の大学も、広報戦略として略称を正式な登記名とし、今日から『X大学』になりました」
監督は驚きのあまり、吸いかけのタバコを灰皿に落とした。
「……何なんだ、そのスピード感は。嫌がらせか?」
「いえ。お役人の話では、『ドラマの知名度にあやかって名前を寄せた方が、ふるさと納税も志願者数もバズるから』だそうです」
工場の仕事に採用されてホッしたけど、明日から早朝に起床しなければならない生活が始まるのかと思うと、僕は急に、憂鬱になった。
それで街の道端で寝転んでいたら、突然もの凄い音が鳴り響いて、人々が逃げ惑っている姿が見えた。
遠くを眺めると、巨大な人間のような何かが雄叫びを上げている。
街の中には人間型の巨大ロボットが横たわっていて、操縦席を開けると死んだ人がぽろっと落ちてきた。
機内のコンピューターはまだ起動できたので、僕はロボットの姿勢を立て直し、ロボットが持っていたライフルを二、三発撃ったら巨大な人間はすぐに死んだ。
次の日、僕は無断で軍の機体を操縦した罪で逮捕された。
「ロボットじゃなくて、その機体はCLPと呼ばれています。ロボットという呼び方は古くてダサいのです!」
はあ。
「あなたたちは、CLPの無断使用で罪に問われていますが、街の危機を救った英雄です。軍は、あなたたちがCLPのパイロットに志願するのであれば罪を不問にします」
軍の尋問室には、僕の他にも若い女の子が二人いて、彼女たちも勝手にロボットを動かしたらしい。
まあ軍なら、工場の三倍ぐらいの給料は貰えるみたいだけど。
「おはようっす!」
翌朝、軍の研修室へ行くと昨日の女の子たちが元気に挨拶をしてきた。
「とりあえず一カ月も研修があるなんて、何かかったるいよね……」
軍にもいろいろ事情があるだろうし。あ、教官が来た……。
「この街を襲った巨大人間は、GLRと呼ばれており、われわれの機体CLPの原型になった、別世界の人間型巨大生物です」
え、いきなり意味が分からない。
「われわれのCLPは、簡単に言えば、人間型巨大生物であるGLRの身体に鎧をまとわせて、その肉体に操縦室を無理やり埋め込んだだけのものです。人間型巨大生物のGLRは、自分たちの同胞が、人間によって勝手にロボットに改造されたことに怒って、同胞を助けるために、われわれ人類へ戦いを挑んできました」
つまり巨大人間は、われわれ人類の理不尽な行為から自分たちの仲間を助けるために戦っている、ということ?
「いまは戦争なんだから、敵は敵でしょ。早く戦闘させてよ!」
女の子たちは、そう教官に文句を言う。
巨大人間には人権なんて無いし、殺しても誰も文句は言わないだろうし、人類を守る正義の戦いだし、給料も高いし……。
「あの、もしパイロットになることを拒否したらどうなりますか?」